花水木

 ぬるい茶を飲んで千葉を見る。

 「千葉自身は、なんかあった?」

 「友達はどうしたもんだろうと気になってたくらいだよ。特になにもない」

 俺は何度か頷いて、「その友達は元気そうだね」と笑い返した。

 「兄さんは元気?」

 「バイト先で常連の女の子、口説いてみたらしい」

 「かつ丼の店だっけ。結果は?」

 「惨敗だとさ」と千葉は苦笑する。

 「年下だってよ、女の子。高校生だってさ」

 「兄さん、いくつだっけ?」

 「大学三年。今年二十一になる」

 「相手の高校生は何年生なんだろうね」

 「俺と同じくらいだと思うとかいってたけど」

 「だとすると……」

 ちょうど答えがでたとき、「五歳差」と千葉がいった。

 「まあ年齢のせいじゃないと思うけど」といって、千葉はまた一口、缶を傾けた。

 「そうなのかな。店にしょっちゅうくるようじゃ、かつ丼が好きな人なんじゃないの? 兄さん、かつ丼作れるじゃない」

 「あれ別に兄貴のかつ丼じゃないのよ」と千葉が笑う。

 「店の味だから。兄貴オリジナルかつ丼じゃないから」

 「家でも店のかつ丼が味わえる」

 「兄貴がそれが武器にならない程度の男なのか、あちらがそんなもんじゃ釣れない女の子か、なんだろ」

 「家で店と同じものが食べられるなんて、かなり魅力的だと思うんだけど」

 千葉はくすりと笑った。

 「水月を狙う女の子は大変だよな。料理の数がないなら質を極めなきゃ、質がよくないなら世界中の料理を作れるようにならなきゃなんない」

 俺は指先で湯呑みの凹凸をなぞった。「またあるいは、世界中を旅する体力がなければならない」と補足する。

 「食の世界一周旅、がしたいんだっけ? そのときにはゲテモノって呼びたくなるようなもんも食うの?」

 「一緒にいく人がいるなら、その人に強要はしないよ。俺だって、食べてみたいと思わなければ食べない。見た目は関係なく」

 「石狩鍋でもサーターアンダギーでも、興味がなければ食わないのか。反対に、どんな残酷な見た目でも興味があれば食うと」

 「食べたいもの食べた方が楽しいじゃない」

 「でもお前、今んところはなにが好きなんだっけ?」

 「卯の花巾着。炒り煮も好き」

 「たぶんお前、ゲテモノには興味湧かねえよ」

 焼いた香ばしいあぶらあげと、卯の花の優しい味がたまらないのだ。煮れば、あぶらあげが優しい味のだしをこれでもかと吸っていて、頬張った瞬間に至福が訪れる。

 思い出すとわくわくして、たまらず、あぐらをかいた脚を揺らす。口の中がじゅわっとする。