田崎さんと当たるといっていた花車は、果たしてその田崎さんと戦うことになった。
初めてその人が出てきたとき、てらちゃんが「あれが田崎さん」と教えてくれた。痩せ型の男子だった。
今見てみれば、身長は向かい合う花車より、気持ち高いように見える。
顔立ちは……整っているんだと思う。
こちらは二階、あちらは一階にいるけれど、よく見えないというわけではない。
小さな顔は顎が細く、垂らした前髪はさらりとしていて体の動きに合わせて揺れ、本人の癖なのか頻繁に噛まれる唇にはこれといった特徴がない。筋の通った鼻は細く、大きいか小さいかでいえば大きい方に分類できそうな目は、黒目が大きそうだった。
一般的には整った顔立ちといえるんだろうなということは、周りの観客の様子で、鈍感なわたしにも理解できる。
ただ……。
なんとなくだけれど、性格はわたしの好みではないような感じがする。悪意を持った千葉さんのよう、というか。いや、千葉さんはいい人だけれども。
掴みどころがないのはそのままに、千葉さんから無邪気さや穏やかさといった長所をちょっとずつ取り除いたような、そんな性格なんじゃないかと思わせる雰囲気が田崎さんにはある。
……なんだろう、あの人に花車が負けるのは、気に入らない。
花車も田崎さんも、互いを相手にすることに慣れているようだった。右へ左へ、奥へ手前へ打たれる球が飛び越えるのが、ネットではなく、二人の間に横たわる親しみや、ある種の愛情のようなものに見えた。
それが次第に熱を帯び、やがて火がついて、炎が高くあがり、飛び越える球も、熱い熱いというように、炎の上を逃げるように素早く通り過ぎるようになる。
球がかたいものに当たる軽やかな音さえも熱っぽくなり、焚き火の中で木が爆ぜる音に似て聞こえてくる。
ふいに大きく爆ぜた音で、田崎さんが点をとった。
胸の奥で悪態をついた自分に驚くのと同時に恥ずかしくなり、ちらちらと目を左右に動かした。脚の上で無意識のうちに強く握っていた両手をそっと開く。
見れば、球は右からも左からも逃げるように、台の上を弾んでいた。
ふと、花車が口角をあげた。楽しくてたまらないというように、自分の勝利を確信しているように。
軽くなった胸の中で、わたしはその余裕を「ばーか」と笑う。あんた、先に一点とられてるのよ。調子にのってたらあっという間に引き離されるわ。
一点と二点。
三点と五点。
五点と九点。
花車の数字が小さいまま、試合が進む。
花車はさっきの笑顔なんてなかったみたいに、暑苦しく慌てていた。
激しさを増す花車の慌てぶりと一緒に、わたしもいらいらしてくる。
へたくそと叫ぶわけにも、笑っちゃうわと煽るわけにも、大声で笑うわけにもいかない。
いや、わたし一人だったなら、隣にてらちゃんがいなかったら、てらちゃんの花車への思いを知らなかったら、わたしはそのどれかをしたに違いない。いや、へたくそと叫んで、大声で笑いながら笑っちゃうわと煽ってやったかもしれない。
でも今は、それをすることに、胸の奥が強く強くブレーキをかける。何度、花車を煽ってやろうと思ったかわからない。
でもそのたびに、激しく回って胸を突き破ろうとしていた衝動のタイヤが、
サイドブレーキでも引かれたみたいに、
緊急停止ボタンでも押されたみたいに、
バランスを崩すことも恐れずに両手でレバーを握りしめたみたいに、
ぴたっと動きを止めてしまう。思うより重さや速さのなかったその衝動は、そんなふうにかけられたブレーキでタイヤが止まってしまえば、それと同時に動かなくなってしまう。
何度目かの休憩の間に、わたしはどうにも我慢ができなくなって、ちょっと大きな声で「てらちゃん」と隣の友達を呼んだ。
わたしはさらに深く息を吸いこむ。
「田崎さんって、今、水分摂ってる人だよね。すっごいかっこいいのね」と、吸いこんだ息のすべてを吐きだした。
てらちゃんの好きな花車がかっこ悪いわけじゃない。ただ、田崎さんがかっこいいんだ。
わたしの声に反応して、花車と田崎さんがこちらを見た。わたしは花車と重なった視線を睨みつける。
田崎さんはにやりと笑うと、青っぽい色のボトルを持った手でこちらを示し、花車に向かってなにかいった。
初めてその人が出てきたとき、てらちゃんが「あれが田崎さん」と教えてくれた。痩せ型の男子だった。
今見てみれば、身長は向かい合う花車より、気持ち高いように見える。
顔立ちは……整っているんだと思う。
こちらは二階、あちらは一階にいるけれど、よく見えないというわけではない。
小さな顔は顎が細く、垂らした前髪はさらりとしていて体の動きに合わせて揺れ、本人の癖なのか頻繁に噛まれる唇にはこれといった特徴がない。筋の通った鼻は細く、大きいか小さいかでいえば大きい方に分類できそうな目は、黒目が大きそうだった。
一般的には整った顔立ちといえるんだろうなということは、周りの観客の様子で、鈍感なわたしにも理解できる。
ただ……。
なんとなくだけれど、性格はわたしの好みではないような感じがする。悪意を持った千葉さんのよう、というか。いや、千葉さんはいい人だけれども。
掴みどころがないのはそのままに、千葉さんから無邪気さや穏やかさといった長所をちょっとずつ取り除いたような、そんな性格なんじゃないかと思わせる雰囲気が田崎さんにはある。
……なんだろう、あの人に花車が負けるのは、気に入らない。
花車も田崎さんも、互いを相手にすることに慣れているようだった。右へ左へ、奥へ手前へ打たれる球が飛び越えるのが、ネットではなく、二人の間に横たわる親しみや、ある種の愛情のようなものに見えた。
それが次第に熱を帯び、やがて火がついて、炎が高くあがり、飛び越える球も、熱い熱いというように、炎の上を逃げるように素早く通り過ぎるようになる。
球がかたいものに当たる軽やかな音さえも熱っぽくなり、焚き火の中で木が爆ぜる音に似て聞こえてくる。
ふいに大きく爆ぜた音で、田崎さんが点をとった。
胸の奥で悪態をついた自分に驚くのと同時に恥ずかしくなり、ちらちらと目を左右に動かした。脚の上で無意識のうちに強く握っていた両手をそっと開く。
見れば、球は右からも左からも逃げるように、台の上を弾んでいた。
ふと、花車が口角をあげた。楽しくてたまらないというように、自分の勝利を確信しているように。
軽くなった胸の中で、わたしはその余裕を「ばーか」と笑う。あんた、先に一点とられてるのよ。調子にのってたらあっという間に引き離されるわ。
一点と二点。
三点と五点。
五点と九点。
花車の数字が小さいまま、試合が進む。
花車はさっきの笑顔なんてなかったみたいに、暑苦しく慌てていた。
激しさを増す花車の慌てぶりと一緒に、わたしもいらいらしてくる。
へたくそと叫ぶわけにも、笑っちゃうわと煽るわけにも、大声で笑うわけにもいかない。
いや、わたし一人だったなら、隣にてらちゃんがいなかったら、てらちゃんの花車への思いを知らなかったら、わたしはそのどれかをしたに違いない。いや、へたくそと叫んで、大声で笑いながら笑っちゃうわと煽ってやったかもしれない。
でも今は、それをすることに、胸の奥が強く強くブレーキをかける。何度、花車を煽ってやろうと思ったかわからない。
でもそのたびに、激しく回って胸を突き破ろうとしていた衝動のタイヤが、
サイドブレーキでも引かれたみたいに、
緊急停止ボタンでも押されたみたいに、
バランスを崩すことも恐れずに両手でレバーを握りしめたみたいに、
ぴたっと動きを止めてしまう。思うより重さや速さのなかったその衝動は、そんなふうにかけられたブレーキでタイヤが止まってしまえば、それと同時に動かなくなってしまう。
何度目かの休憩の間に、わたしはどうにも我慢ができなくなって、ちょっと大きな声で「てらちゃん」と隣の友達を呼んだ。
わたしはさらに深く息を吸いこむ。
「田崎さんって、今、水分摂ってる人だよね。すっごいかっこいいのね」と、吸いこんだ息のすべてを吐きだした。
てらちゃんの好きな花車がかっこ悪いわけじゃない。ただ、田崎さんがかっこいいんだ。
わたしの声に反応して、花車と田崎さんがこちらを見た。わたしは花車と重なった視線を睨みつける。
田崎さんはにやりと笑うと、青っぽい色のボトルを持った手でこちらを示し、花車に向かってなにかいった。



