てらちゃんとは、これといった理由はないけれど、学校の近くにあるコンビニで待ち合わせをした。
てらちゃんは黄色っぽいティーシャツにデニムの短パンという出で立ちで、藤色のロングカーディガンを羽織っていた。足元は白の綺麗なスニーカー。肩には明るい茶色の小さめのショルダーバッグをかけている。
わたしはといえば、白のタンクトップに淡いピンクの半袖のパーカーを重ね、下は洗いたてのジーンズ。
ジーンズはずいぶんとぴったりしてしまったけれど、履いているうちに馴染んでくるはずだ。靴はいつも学校に履いていっている、黒のスニーカー。財布と携帯電話は紺色のトートバッグに入れてきた。
「ときもっちってば綺麗だなあ」とてらちゃん。
いろいろな角度からわたしを見ながら「美人のスキニーデニムでやんすか」といって、冗談っぽく息を荒くする。「ぐへ、ごちそうさまです」
わたしはなんとか「違う」と声を絞りだした。
「え?」
「違う、これ……スキニーじゃない……。洗っただけ……」
てらちゃんは一瞬かたまって、「そんな綺麗な脚してりゃあ、モーマンタイでやんす」と細い親指を突き立てた。
コンビニで飲み物を買って、学校へ向かって歩きだす。
「ときもっちって、全然自分に自信ありそうな感じしないよね」
しばらく先で歩行者用の信号が点滅しているのを見て、次でいいよねといってから、てらちゃんはそういった。
「そう?」
「うん。せっかくかわいくて綺麗な顔してるのにさ」
てらちゃんは手に持っていた『限定サイズ』と書かれたシールの貼られた、五百ミリリットルのものよりも太い麦茶のペットボトルを開栓すると、飲み口に触れずに、口を大きく開いて中身を注ぎ込むようにした。スポーツ選手みたいだ。
足音に混ざって、注ぎこんだ麦茶で頬をふくらませたてらちゃんの喉がごくりごくりと鳴るのが聞こえた。
「もしかして、あれ? 男子にいい寄られすぎて嫌になっちゃったの?」
「なにをいうの」とわたしは苦笑する。「いい寄られるなんて、そんな経験一回もないよ」
一生のうちには、一度くらい経験してみたいけれど。その相手に添い遂げられたら、もう悔いはない。
ふと、ちらっと千葉さんの笑顔が頭に浮かんだ。いいやまさかと首を振る。あれは冗談だ。
「じゃあもっと自信持った方がいいよ。あたしがときもっちみたいな顔とスタイルだったら、あっちこっちに売りこむね、自分を」
「たとえば?」
「好きな人には告白するし、芸能事務所にも売りこむかも。モデルの仕事とかきそう」
「百六十センチにも遠く及ばない身長で?」
「実際いくつなの?」
「百五十六」
「へえ」とてらちゃんは驚いたようにいった。「あたしよりちっちゃいんだ」
「てらちゃんは?」
「五十八。もうちょっとあった方がスタイルよく見えるよね」
「わたしの前でいう?」と笑い返すと、「ときもっちは頭身が高いからいいんだよ」と返ってきた。
「花車くんとは、実際どんな感じなの?」
「え?」
突然のばか男の登場にびくりとする。
「なに、急に」
「いやあね、あたしは思うんでやんすよ」へらりというと、てらちゃんは途端にまじめな顔をした。
「花車葉月、あの色男、ときもっちに惚れてる」
「はあ?」と大声が飛びだした。
「なにいってるの、わたしはあいつに嫌われてるんだってば」
「照れ隠しみたいなものだよ、そんなのは」
「てらちゃんだっていってたじゃん、中二の頃のこと話したときに」
それじゃあ嫌われてもしょうがないって。
てらちゃんはかわいらしい目を伏せて、白い肌にまつ毛の影を落とした。
「でも、見てるうちになんか違うなって思って」くすりと笑う声は静かだった。「やっぱりさ、好きな人が自分に興味があるかどうかって、わかるもんなんでやんすよ」
てらちゃんはまた、麦茶を口に直接注ぐようにして、やわらかそうな白い頬をふくらませた。
てらちゃんは黄色っぽいティーシャツにデニムの短パンという出で立ちで、藤色のロングカーディガンを羽織っていた。足元は白の綺麗なスニーカー。肩には明るい茶色の小さめのショルダーバッグをかけている。
わたしはといえば、白のタンクトップに淡いピンクの半袖のパーカーを重ね、下は洗いたてのジーンズ。
ジーンズはずいぶんとぴったりしてしまったけれど、履いているうちに馴染んでくるはずだ。靴はいつも学校に履いていっている、黒のスニーカー。財布と携帯電話は紺色のトートバッグに入れてきた。
「ときもっちってば綺麗だなあ」とてらちゃん。
いろいろな角度からわたしを見ながら「美人のスキニーデニムでやんすか」といって、冗談っぽく息を荒くする。「ぐへ、ごちそうさまです」
わたしはなんとか「違う」と声を絞りだした。
「え?」
「違う、これ……スキニーじゃない……。洗っただけ……」
てらちゃんは一瞬かたまって、「そんな綺麗な脚してりゃあ、モーマンタイでやんす」と細い親指を突き立てた。
コンビニで飲み物を買って、学校へ向かって歩きだす。
「ときもっちって、全然自分に自信ありそうな感じしないよね」
しばらく先で歩行者用の信号が点滅しているのを見て、次でいいよねといってから、てらちゃんはそういった。
「そう?」
「うん。せっかくかわいくて綺麗な顔してるのにさ」
てらちゃんは手に持っていた『限定サイズ』と書かれたシールの貼られた、五百ミリリットルのものよりも太い麦茶のペットボトルを開栓すると、飲み口に触れずに、口を大きく開いて中身を注ぎ込むようにした。スポーツ選手みたいだ。
足音に混ざって、注ぎこんだ麦茶で頬をふくらませたてらちゃんの喉がごくりごくりと鳴るのが聞こえた。
「もしかして、あれ? 男子にいい寄られすぎて嫌になっちゃったの?」
「なにをいうの」とわたしは苦笑する。「いい寄られるなんて、そんな経験一回もないよ」
一生のうちには、一度くらい経験してみたいけれど。その相手に添い遂げられたら、もう悔いはない。
ふと、ちらっと千葉さんの笑顔が頭に浮かんだ。いいやまさかと首を振る。あれは冗談だ。
「じゃあもっと自信持った方がいいよ。あたしがときもっちみたいな顔とスタイルだったら、あっちこっちに売りこむね、自分を」
「たとえば?」
「好きな人には告白するし、芸能事務所にも売りこむかも。モデルの仕事とかきそう」
「百六十センチにも遠く及ばない身長で?」
「実際いくつなの?」
「百五十六」
「へえ」とてらちゃんは驚いたようにいった。「あたしよりちっちゃいんだ」
「てらちゃんは?」
「五十八。もうちょっとあった方がスタイルよく見えるよね」
「わたしの前でいう?」と笑い返すと、「ときもっちは頭身が高いからいいんだよ」と返ってきた。
「花車くんとは、実際どんな感じなの?」
「え?」
突然のばか男の登場にびくりとする。
「なに、急に」
「いやあね、あたしは思うんでやんすよ」へらりというと、てらちゃんは途端にまじめな顔をした。
「花車葉月、あの色男、ときもっちに惚れてる」
「はあ?」と大声が飛びだした。
「なにいってるの、わたしはあいつに嫌われてるんだってば」
「照れ隠しみたいなものだよ、そんなのは」
「てらちゃんだっていってたじゃん、中二の頃のこと話したときに」
それじゃあ嫌われてもしょうがないって。
てらちゃんはかわいらしい目を伏せて、白い肌にまつ毛の影を落とした。
「でも、見てるうちになんか違うなって思って」くすりと笑う声は静かだった。「やっぱりさ、好きな人が自分に興味があるかどうかって、わかるもんなんでやんすよ」
てらちゃんはまた、麦茶を口に直接注ぐようにして、やわらかそうな白い頬をふくらませた。



