学校では、てらちゃんと過ごした。席に戻れば隣に花車がいるけれど、彼の存在を自分の内側から追いだすことに集中した。
花車がいると落ち着かない。いらいらするような、そわそわするような、なんともいえない気分になる。ちらちらと視界の隅を邪魔する横顔が、なんとも悲しそうな、寂しそうなものに感じてしまう。
別にわたしがそんな顔をさせているわけではないんだし、なにも気にする必要なんてないのに。
わたしは彼とは違う。わたしは人から酸素を奪ったりしない。他人に、不自由を押しつけたりしない。
わたしは、せいぜい勉強が影響を受けないように気をつけながら花車を軽蔑するくらいでいいのに。
どうしてこんな、なにかいってあげなくてはいけないような、義務感のような、責任感のようなものを、感じなくてはいけないの。
優しさを、許しを求めるように見えるばか男の横顔に、優しくしてあげなくてはいけないような、衝動にも似た、胸の辺りのざわざわを、どうして感じなくてはいけないの。
授業が終わり、短い休み時間に教科書やノートを整えているとき、たまらず「わたしだって」と声がでた。
「わたしだって、あんたのことなんか気に入らない」
「次の席替えまで待て」
「わたしに気に入られるように努力しようとは思わないの?」
「ばかか、お前は。なんで俺がそんなことしなきゃいけない」
「もっと堂々としてなよ。あんたのためにもなるんじゃないの」
「別に怯えてるわけじゃない」
「じゃあなんでそんな顔するの。許してほしそうな、優しくしてほしそうな」
「そんな顔してない」
「……土曜日」
わたしは下敷きが見当たらないのに気がつき、先ほどまで使っていたノートを机の中から引きだした。
「そんなぐずぐずしてたら許さない」
ぱらぱらとめくると、ある一か所でページが一気に開いた。小学生の頃から使っている、すっかり傷だらけの、赤色の透明な下敷きを取りだし、次に使うノートの表紙の上に置いた。
「お前に許されようとは思わない」
「北高。田崎さんっていうかっこいい人がいるんだってね。当たるの?」
「……きっと」
「そのためにここに入ったんでしょ。無様に負けたら笑ってやる」
「お前にとってはつまらない試合になる」
「そう? 楽しみだね」
「お前は俺を嘲笑しない」
「それはわたしが決めることでしょう。あんたが田崎さんに勝とうと負けようと、みっともなければわたしはあんたを笑う」
「俺が見るお前の笑い顔は、軽蔑によるもんじゃない。必ず」
わたしは大げさに、ばかにした調子で笑った。
「都合よくできてるんだね、その目ん玉は」
「お前は、誰のことも軽蔑してはいけない」
「なに、底辺にいろってこと?」
「それがお似合いだ」
「ああそうですかい」
くだらないやりとりをしながら、わたしは自分がほっとしているのに気がついている。このばか男が、いかにもばか男らしく、ばかみたいな顔をし始めているから。
このばか男には、人をばかにするような顔が似合っている。だって、人をばかにするなんて、一番ばかなことだから。
自分のしでかしを認めて、許しを優しさを求めるなんて、ばからしくもある程度の頭がなければできないようなことは、このばか男にはできないのだ。
決して、できないのだ。
花車は、そんなことをしてはならない。
花車がいると落ち着かない。いらいらするような、そわそわするような、なんともいえない気分になる。ちらちらと視界の隅を邪魔する横顔が、なんとも悲しそうな、寂しそうなものに感じてしまう。
別にわたしがそんな顔をさせているわけではないんだし、なにも気にする必要なんてないのに。
わたしは彼とは違う。わたしは人から酸素を奪ったりしない。他人に、不自由を押しつけたりしない。
わたしは、せいぜい勉強が影響を受けないように気をつけながら花車を軽蔑するくらいでいいのに。
どうしてこんな、なにかいってあげなくてはいけないような、義務感のような、責任感のようなものを、感じなくてはいけないの。
優しさを、許しを求めるように見えるばか男の横顔に、優しくしてあげなくてはいけないような、衝動にも似た、胸の辺りのざわざわを、どうして感じなくてはいけないの。
授業が終わり、短い休み時間に教科書やノートを整えているとき、たまらず「わたしだって」と声がでた。
「わたしだって、あんたのことなんか気に入らない」
「次の席替えまで待て」
「わたしに気に入られるように努力しようとは思わないの?」
「ばかか、お前は。なんで俺がそんなことしなきゃいけない」
「もっと堂々としてなよ。あんたのためにもなるんじゃないの」
「別に怯えてるわけじゃない」
「じゃあなんでそんな顔するの。許してほしそうな、優しくしてほしそうな」
「そんな顔してない」
「……土曜日」
わたしは下敷きが見当たらないのに気がつき、先ほどまで使っていたノートを机の中から引きだした。
「そんなぐずぐずしてたら許さない」
ぱらぱらとめくると、ある一か所でページが一気に開いた。小学生の頃から使っている、すっかり傷だらけの、赤色の透明な下敷きを取りだし、次に使うノートの表紙の上に置いた。
「お前に許されようとは思わない」
「北高。田崎さんっていうかっこいい人がいるんだってね。当たるの?」
「……きっと」
「そのためにここに入ったんでしょ。無様に負けたら笑ってやる」
「お前にとってはつまらない試合になる」
「そう? 楽しみだね」
「お前は俺を嘲笑しない」
「それはわたしが決めることでしょう。あんたが田崎さんに勝とうと負けようと、みっともなければわたしはあんたを笑う」
「俺が見るお前の笑い顔は、軽蔑によるもんじゃない。必ず」
わたしは大げさに、ばかにした調子で笑った。
「都合よくできてるんだね、その目ん玉は」
「お前は、誰のことも軽蔑してはいけない」
「なに、底辺にいろってこと?」
「それがお似合いだ」
「ああそうですかい」
くだらないやりとりをしながら、わたしは自分がほっとしているのに気がついている。このばか男が、いかにもばか男らしく、ばかみたいな顔をし始めているから。
このばか男には、人をばかにするような顔が似合っている。だって、人をばかにするなんて、一番ばかなことだから。
自分のしでかしを認めて、許しを優しさを求めるなんて、ばからしくもある程度の頭がなければできないようなことは、このばか男にはできないのだ。
決して、できないのだ。
花車は、そんなことをしてはならない。



