花水木

 広い公園の隅、部屋に鞄を放りだして持ってきた画材に、深呼吸して向き合う。

 雑念を払う。

 雑念を……。

 雑念——。

 意識すればするほど、邪魔な存在が大きくなる。

 どうしてあのばかにこれほど乱されなくちゃいけないの。

 あのばか男にできることは、相手の前から一切姿を消すか、できるのであれば酸素を返すことだけだ。できないなりに立つ鳥をまねるか、中途半端なお節介を完遂するかの二つしかないのだ。

 わたしの邪魔をすることはあのばか男には許されていないし、あのばか男のするべきことでもない。

そんなことをしている暇があるのなら、さっさと相手の前から消えるか、押しつけた不自由を受けとって奪った自由を返すべきなのだ。

 あのばか男には、それしかやることがない。あえてほかにも挙げるなら、三年が一般的だけれども、何年で卒業するかを選べる高校を三年で卒業できるよう注意することくらいなもの。

飛び級なんて大層なことができて、それを選ぶというのなら、わたしにはそれを止める理由はないけれど。わたしはあのばか男と違って、他人様(ひとさま)の邪魔はしない。二酸化炭素を押しつけて酸素を奪うなんてことはしない。

 わたしは折りたたみ椅子の背もたれに体を預け、夕焼けの始まる前の空を見た。

 まったく、ねちっこい男——。

 あなたがどんな状況に置かれていようと、わたしの知ったことではないといっているのに。

 まったく、諦めの悪い男——。

 わたしがしてあげられることなんてないのに。まったくばかねと罵るくらいなものなのに。

 なのに、どうしてこんなにしつこくくっついてくるのか。それも、ヴェールのような薄い雲に綺麗と心を奪われる余裕もないほどに。

 わたしは勢いをつけて姿勢を正した。そのまま立ちあがり、画材を片づける。それらをしまったものを肩にかけ、遠くの出入り口へ大股で向かう。

 決めた。今日はもう描かない。

 夕飯が入らなくなる? 知ったものか。

 そんなに食べたら太る? 怖いものか。

 こういうときはかつ丼を食べるに限る。

 増える体重が二キロでも三キロでも受け入れてやる。

 すでにこの間量ったら一キロ弱増えていたのだ。今さらどうってことない。また忘れた頃に量れば元に戻っているものだもの。