花水木

 「ときもっち学習室付き合ってー、図書館でもいいよー」というてらちゃんを「ごめん、今日ちょっと早く帰らないと」と断った。「土曜日に向けて卓球の勉強でやんすか?」と笑うので、「そんなとこ」といっておいた。

 乱暴に地面を踏んで、蹴って、校門の外を目指す。あのなんともいい表せない感情はやがて、いらだちにも似た形を作りだした。

 ハナムグリのやつ、実はおせっかいなんだ。中途半端に世話を焼いて、相手から自由を奪ったんだ。優しいふりをしてそばに現れて、必要なものを差しだすふりをして、実際には必要なものを奪っていたんだ。

 そのことに、相手が息苦しくなってからようやく気づいたんだ。それで今、ひどく後悔している。

 ばかじゃないの——。

 そんなことで、よくあんな顔ができたものだ。相手が苦しくなる前に、酸素が薄くなっていることくらいわかるだろうに。自分の欲求が満たされていくのは、相手から酸素を奪っているためだと、わかるだろうに。

 それに気づかないで相手を苦しめて、限界を迎えた姿に驚いたら、自分を死神だなんていってダークヒーロー気取り。

 絶望しながら強がっているつもり? その姿で同情でも買おうとしたの?

 ——ばかじゃないの。わたしはあなたに同情しない。

 幻滅し、衝撃を受け、恐怖を感じたのは本当かもしれない。衝動といっても、差しだしたいのではなく、逃げだしたい方なら嘘じゃない。

 けれど、憐憫。これは間違いなく幻だ。わたしが彼を憐れむ理由なんてどこにもない。本当に憐れむべきなのは、花車に自由という酸素を奪われて苦しんでいる人だ。

感情は凶器だと嘆きながら、花車が、あのばか男が、必死に酸素を返そうとしている相手だ。