花水木

 「で、なんで女の子からの告白、受け入れないの?」

 「なに、告ってんの?」

 「お赤飯炊いてあげる」

 「俺は恋はしない」

 「みんなの花車くんでいるために?」

 ふと、花車が悲しい顔をした。ふわりと消えてしまいそうな、痛いほどの儚さをまとった。

 「自由を、奪わないためだ」

 「……は?」

 「相手の幸せと、自由を奪わないために……」

 「なにいってんの?」

 「俺は普通の人とは違う」

 「まあ、死神で悪魔だからね。でもそういうのをご所望の女性だっているんじゃないの?」

 「さあ、どうでしょうな」と花車はからっとした声でいった。口角は微かにあがっている。

 「……俺は、大切な人から自由を奪う」

 声も表情も、乾いているのにどうしようもなく湿っていた。雨が降る直前のような、直前まで雨が降っていたかのような、いや、むしろ、まるで今この瞬間、雨が降っているかのように。

 「……そんなこと、ないでしょ。いくら死神の悪魔さんを自称したって、悪意を持って人と接するわけじゃないでしょう? 善意が人を傷つけるとか、そういうのって、よっぽど行き過ぎたときか、自分勝手で中途半端なときくらいだよ」

 「よっぽど行き過ぎたし、自分勝手で中途半端だったんだよ」

 聞いたことのない響きだった。わたしをよく思っていないのはいつものことだけれど、それ以上に、絶望のような、深くて激しいものをまとい(はら)んだ響き。

 「は……?」

 なに、それ。

 辺りが真っ暗になったみたいだった。ぱちん、と、明かりの消える音が聞こえたみたいだった。

 それじゃあ、まるで、経験があるみたいじゃない。

 大切な人から自由を奪った経験が、あるみたいじゃない。しかも、もう取り返しがつかないような形で。

 花車は机の上で腕を枕にするようにした。「感情は……凶器だ」

 わたしはなにもいえなくなった。話を聞いていなかったわけじゃない。むしろ、嫌というほど耳に入ってきた。

 胸の中で激しく渦巻くものがなんなのかわからない。

 幻滅——衝撃——恐怖——衝動——憐憫(れんびん)——。

 どれも、的確なようで、かけ離れているようでもある。

 逃げだしたいのか、それとも差しだしたいのか。自分の気持ちなのに、まるでわからない。