花水木

 昼休みの終わりを告げる慈悲のないチャイムに従って、てらちゃんと別れて自分の席に戻った。

 隣の席にはすでに花車が戻っていて、わたしは彼の横顔を観察した。てらちゃんほどのかわいい人があれほど褒めるような顔をしているだろうか。

 感じ方は人それぞれ、というのびのびした言葉があるのは知っているし、わたしもその言葉は大好きだけれど、それにしても、わたしには花車の見た目に魅力は感じない。

 「なに」と鋭い目が返ってきた。

 「そう照れないでよ」と返すと「赤飯炊いてやる」と返ってきた。おめでたいやつだ、といいたいのだと思う。

 それをわかった上で、わたしは笑ってみせる。

 「優しいじゃん。じゃあ帰りのホームルームの前に食べられるようにしておいて」

 「俺はお前の執事じゃない」

 「じゃあなに?」

 ああ、と思いついて「悪魔か」といった声が「死神だ」と返ってきた声と重なった。

 「最悪だよ、もう。死を司る神様みたいな悪魔ってこと? 情報過多だよ。二年くらい前じゃないと処理しきれない」それこそ、純粋で多感な中学二年生くらいでないと。

 「俺の左眼(さがん)には危険な力が宿っている、注意せよ」

 本気なのか冗談なのかわからない調子の声を聞き流し、わたしは「ねえ」と声をかけた。

 「女の子からの告白って絶対に受け入れないんだって?」

 「知ってるなら告白なんかするなよ。()を解放してお前を呪ってやる」

 「花車、にらめっことかすごい得意でしょ。危うく噴き出すところだったよ」

 「やるからには勝つ。娯楽でもゲームでも、勝負とあれば必ず勝つ」

 「じゃあ、今週の北高との試合も?」

 花車はわかりやすく表情を変えた。うろたえるような雰囲気があふれてくるようだった。

 「なんでお前がそんなこと」

 「わたしだって花車に嫌われてるだけの無礼者じゃないんだよ。友達だっているの」

 「……くるつもりか」

 「断る理由もないからね。そう、北高の田崎さんって人がかっこいいんだってね。中学の卓球部にそんな名前の人がいた気がしたけど、その人?」

 花車はなにも答えなかった。なんとしても田崎さんを越えるつもりなのだろう。その田崎さん(、、、、)が、わたしが中学校で聞いた人なのか、先ほどてらちゃんから聞いた人なのかはわからないけれど。どちらでもあるかもしれない。

 「自信の程は?」

 「勝つさ」と花車は口角を持ちあげた。「自分が笑うかどうかはその場で決めるけれども、他者を笑わせることは絶対にしない」

 わたしはちょっと意地の悪いことをいってみたくなって、言葉を探した。その時間を「ふふ」と笑ってごまかす。

 「でも気をつけなよ、ハナムグリはにらめっこが得意なんだから」

 彼は「ふん」と笑うように鼻を鳴らした。「ほざけ」

 「まあ勝ちなよ。卓球でも、にらめっこでも」せいぜい頑張ればいい。

 「卓球だ」絶対に勝つ、と。

 「はいはい」とわたしは笑った。

 本当にプライドの高い人だ。せっかくそれほど立派に育った自尊の心なら、せいぜい守り抜いてほしい。