花水木

 わたしは水筒の蓋を閉めて、机に置いた。

 「でも卓球かあ……ルールもわかんないや」

 「十一点制」とてらちゃんは短くいった。「どっちが点をとったかは、とった方がすごい喜んでくれるからすぐわかるよ」

 「……え、てらちゃんもあんまり詳しくない感じ?」

 「なにをいうでやんすか」

 「ああ、詳しくないんだ」

 困ったように恥ずかしそうに笑うてらちゃんに釣られて、わたしも笑った。

 「だいたいのことは、会場の雰囲気でわかるよ。どっちが点をとったのかがわかれば、詳しいルールがわかんなくても見てて勝手に熱くなってくるし。音楽みたいなものだよ」

 「音楽?」

 「ほら、歌い方とか、……ええと……あっ、コードとか? そういうのがわからなくても、いい曲はいいなって思うじゃない。歌なら歌詞とか声とか、クラシックみたいなものでも、音の雰囲気で好きか嫌いかは決められるじゃない」

 「まあ……。うん、そうか」

 「そうだよ。選手でもサポーターでもないんだからさ、気楽に見ようよ」

 「どこでやるの? 北高? それともどこか、立派な体育館でも借りるの?」

 「うちの体育館にも期待してあげてよ」とてらちゃんは笑う。

 驚いた。「まさか。うちでやるの?」

 「そうみたいだよ。あの強豪校がこのなんともない学校の体育館にくるなんてねえ。それだけでもおもしろいでやんすよ」

 「北高って、卓球強いんだ?」

 「そりゃあもう、かなりのね」

 てらちゃんがフルーツサンドをかじったことで思い出し、わたしも食事を再開した。

 「でも、そこと試合ができるっていうんじゃ、ここも結構強いの?」

 「北高が自分たちの強さを確認するためでやんす」とささやくてらちゃんに「やめなさい」と苦笑する。

 「まあ、そんなことするような人たちじゃあ強豪なんて呼ばれないだろうし、ここも実はそこそこなのかもしれないね」

 「ここは、北高の田崎さんみたいに目立った選手っていないの?」

 「まあ……名前を挙げるならやっぱり、花車くんじゃないかなあ」

 「花車?」

 「ほら、やっぱりかっこいいしさ。しかも、田崎さんといろいろあるみたいなんだよ」

 「そういうと?」

 「師弟ってやつ」と、てらちゃんは楽しそうに口角をあげて目を細め、にやりとした。

 「詳しいね」

 「で、花車美少年は敬愛する田崎美少年を越えるべく、この学校に入ってきたんですって」

 あえて先輩とは違う学校に進んで、実際に勝つことで先輩を越えようとした、という感じかな。

 ただ……。

 「……花車って、いうほどかっこいい?」

 「かっこいいでしょうよ」とてらちゃんは驚いたように目を見開いた。

 「あれがかっこ悪かったら、かっこいい人なんてそうそういないよ」

 「そうかなあ……。全然そういうイメージないけど」

 「イメージじゃなくて事実なんだって」

 「そうかなあ」

 花車葉月。わたしは彼の顔を思い出してみる。花車美少年……。いわれてみれば、顔立ちは整っているのだろうか。漫画やアニメのやんちゃキャラみたいな雰囲気はあるかもしれない。

好みに合うかどうかというのは、かなり大きな問題みたいだ。花車にそんな雰囲気があったことに、今初めて気がついた。