花水木

 水月と別れたあと、テレビが夕方のニュース番組を流しているリビングで、お母さんがふと、「予約とれた?」といった。

 わたしはソファから立ちあがって「八月三日」と答える。キッチンに向かいながら「単日」とつけ加える。

 「いくら?」

 冷蔵庫を開け、「三万五千円」と答える。五百ミリリットルの炭酸のペットボトルをとりだす。

 「そんなもんなの?」なんていうので、水月の声が蘇ってくる。そんなに安いのだろうか。

 「ええ、なんで一日にしたの。何日かやればよかったのに。十五万くらいは覚悟してたよ」

 わたしはリビングの方を振り向いた。「ええ、だしてくれるつもりだったの?」

 「だってほかになにがあるのよ」

 「そうだけど……そんなつもりだったならいってよ」

 「なんで遠慮なんかしてるのよ。本当、そういうところ変に小心だよね」

 「うるさい……」

 「おとうさん見返してやるんでしょう? なにを臆病になってるの」

 わたしは一口飲んで蓋を閉めた。

 「まあいいよ、またあとでやればいい。しかも近々で二回目をやったら、思ってた以上に人気でちゃいました感もだせそうだし」

 「その強気のままで一週間くらい申しこんでくればよかったのに」

 「一週間じゃ二十二万だってよ」

 「やってやろうじゃないの。あとでたっぷり親孝行してもらうから」

 「最悪だよ」といい返し、「そういうことは思ってもいうもんじゃないよ」と苦笑しながらも、これくらいの方がなんとなく気が楽な自分がいる。どうせ本当に求めているわけではないのだろうけれど、口でだけでもこうしていってくれた方が、ちゃんとお礼はするんだから、という生意気な気持ちになれる。

 「あーあ。これ、あれだね。すっごい売れたとしても、お父さんには秘密にしてみるのもおもしろいね」

 「そのつもりだったけど」

 「あら気が合うじゃない」

 「わたしの娘をばかにしたらどうなるのかっていうのを、しかと教えて差しあげましょう」

 「素敵よ、お母さま」とふざけると、お母さんは小さく笑った。