花水木

 カウンターで迎えてくれたのは千葉さんだった。本当に、いつきてもいる人だ。

 わたしは彼に食券を渡して、ふと思いだした。

 「千葉さん」と声をかけて、水月を振り返る。それからまた千葉さんの方を向き直った。

 「この人、水月」

 千葉さんはふわっと表情を明るくした。店員として感じがいいというより、千葉さん本人が喜んでいる明るさだ。

 「弟が会いにいったろう」

 水月はわたしの横にきて、「お世話になっています」と丁寧に頭をさげた。

 「あれはあなたのおかげで?」

 「かわいい弟がひどく会いたがってたからね。ずっと水月って人の話ばっかりしてるんだ。どんな子だろうと思ってたら、なるほど、賢そうな色男だ」

 「あの日は本当、いろんな話をしましたよ。一度お会いしたかったんです」

 二人の間ではその言葉はそれ以上の意味を持つのだろう、千葉さんの目の奥の表情が、ちょっと変わった。

 「なに、どこにでもいる大学生だよ。きみは大学生に興味があるのかい?」

 「そう見えますか?」

 「とても楽しそうだ」

 「そりゃあ、友達の兄さんがこんなにも魅力的な人じゃ」

 「もっと褒めてくれたっていいんだぜ、俺に自信をくれ」

 「いや、あなたは魅力的ですよ。俺はもう会いたくない」

 千葉さんはふっと笑った。「ここで喧嘩でも売れたら格好いいんだろうけどな」と。

 千葉さんはわたしたちに呼びだし用の端末を渡して仕事に戻った。わたしたちも席に向かった。

 長椅子に荷物を置き、首を左右に傾ける。こういうのがひどくなると肩こりというものになるのかもしれない。

 水月はただ静かに、わたしの後方にある、千葉さんたちが動いているカウンターを眺めている。

 「千葉さんとは知り合い?」

 「友達の兄さんだよ。あの通り、さっきが初めまして」

 わたしはちょっと言葉に困った。

 「そう……。その、なんか激しい初対面だったね」

 「あの人に会うために、今こうしてついてきたんだ」

 「そんなに会いたかったの? 友達のお兄さんなら、簡単に会えそうだけど」

 「あいつには知られたくない」

 「どうして?」

 「ちょっとおもしろい物語があるんだよ」

 「どんな?」

 「誰にも話したくないような」

 あくまで、わたしに教えてくれるつもりはないらしい。

 「仲が悪いの?」

 といっても、初対面だったようだけれど。

 「俺が一方的に挑発しただけだよ」

 「なんのために」

 「あえていうなら、自信を持つために」

 聞けば聞くほどわからなくなる気がした。わたしは「ふうん」とあいまいにうなずいて、呼びだし用の端末に目を落とした。

 それが鳴ってあちらにいったとき、千葉さんはわたしと水月のどちらにともなく「楽しんで」と、どこか寂しげにいった。