花水木

 公園には、元気のありあまった子供が園児服を着て走り回ったりボールを蹴っては追いかけたりしていた。その近くには、黄色や濃紺や深緑の帽子を持った女性や男性がいる。お母さんかお父さんか、あるいは家政婦さんやベビーシッターさんや、その子供の親戚の人なのだろう。

 わたしたちはその芸術を鑑賞するため(、、、、、、、、、)、ベンチに腰をおろした。

 「子供って本当にかわいい。天使か妖精なんだろうね」

 水月は少し間を置いてから、「そうだね」と静かにうなずいた。

 集中しているのだろうと思っていれば、「はなに似た子は特にかわいいだろうね」なんていうものだから、かあっと顔が熱くなり、「ばかじゃないの」と声をあげて水月の背中を叩いた。彼は「いった!」と声を漏らして背中を丸める。脚の上で腕にうずめているけれど、顔まで赤くなっているのが見える。

 「ええ……なに……?」

 「こっちのせりふだよ」

 水月はゆっくりと姿勢を直した。「はなみたいな子がいたらかわいいじゃない……。なんで怒るの……」

 「怒ってない」

 「男に叩かれるより痛いんだけど」と水月は弱々しく笑う。

 「ていうか、わたしはかわいくないから」

 「それは嘘だよ。はなはかわいい。誰がそんなこというの」

 今度は顔だけじゃなく背中の方まで熱くなる。どうやらわたしは、自惚れすぎておかしくなってしまったらしい。

 「ばっ、だ、……本当、水月って変な人」

 「どうしてかわいくないと思うの」

 「自分で自分をかわいいと思うなんて、よっぽどかわいい人だけだよ」

 「世の中には、はなよりかわいい人がいるの?」

 「はあ? いるよ、いっぱい」

 「俺にはそうとは思えない」

 恥ずかしいのと、体中の熱が目元に集まるようで、泣きそうになる。油断すると視界が滲みそうで、顔を正面に向ける。

 「うるさい、黙っててよ」

 「ねえ、はな」

 「黙って。わたしが望めば黙ってくれるんでしょ」

 「俺、はなを描きたい」

 思わず水月の方を向き直ってしまった。「は……?」

 「絵は好きなものを描くに限ると思うんだ。それが楽しいし、楽しんで描いたものの方ができがいい」

 「そりゃそうだろうけど」

 「俺は、はなを描きたい」

 「わたしなんか描いたってどうにもならないよ」

 いってから、先ほど見た、水月の今までの絵が思いだされた。水月の手にかかれば、わたしでも、もしかしたら綺麗に、かわいくなれる……かも、しれない。それだけ、水月の絵には魅力があった。人の手元を描いたものもあった。

植物と鋏を持っていたから、葉月のものだったのだろうけれど、それはとても綺麗だった。わたしが知らなかっただけで、葉月がとても綺麗な手をしているのかもしれないけれど、水月の絵には、その今まで知らなかった美しさを知れるほどの力があるのだ。

 あの魔法をかけてもらえば、わたしも芸術の一部になれるかもしれない。

 「はなの、足元とか、座った腰のあたりなんかを描きたい」

 なんとなくどきどきしてしまったのは隠しきれなかったらしく、「変な意味じゃなくて」とつづけられた。まったくばかみたいだ。

 「はなの見た目で、特に綺麗なところなんだ。細い足首とか、女性らしいしなやかな腰のあたりって。ああ……目も綺麗だ。その目に星空でも見せたら、すごくいい絵になると思う」

 「目、なんか……どうするの……」

 「はなの目を大きく描くんだよ、片目をね。その中に満天の星を浮かべるんだ。想像してごらんよ、ああ、そんなに綺麗なものはない!」

 「やめときなよ、後悔するよ……」

 「やらない方がずっと後悔するよ」

 あまりにまっすぐ見つめてくる、それこそとても綺麗な目から逃げる。

 「はな」と静かな声に呼ばれて、涙目になるのも顔が赤くなるのも隠さず「好きにしたらいいよ」とさながら逆ぎれする勢いで声を張った。

 わたしはさっさと腰をあげた。今度は水月がわたしを見あげた。

 「もう戻るの?」

 「気を落ち着けるの。かつ丼、食べにいくの」

 「ええ、帰ってから夕飯は?」

 「食べるに決まってるでしょ」

 わたしは水月がついてくるのでもこのまま残るのでも、あるいは家に帰るのでも構わないつもりで歩きだした。