花水木

 わたしは鞄から絵を取りだした。冷静に考えてみれば、やはり、客観的な意見というのは必要だ。残念だけれども、わたしはきっと凡才だから。

 絵を差しだすと、水月はちょっと驚いたようにまぶたをぴくりとさせた。

 「いいの?」

 「教えてほしい。わたしがどんな絵を描いてるのか。そこそこなのか、ひどいのか、自分じゃあまるでわからない。水月、わたしは画家になりたい。全部、教えてほしい」

 水月は何度かまばたきしてから、そっと微笑んで受けとった。渡してしまってから恥ずかしくなるような、綺麗な微笑を湛えて、受けとった。

 そして手元の絵を、審美の目で隅から隅まで、時間をかけて見つめた。

 長い静寂に息苦しくなった頃にようやく、水月は「正直」と声を発した。

 「俺は好きだよ。綺麗だと思う」

 喜んでいいものなのかと疑わせたのは一瞬間で、彼は「でも」とつづけた。

 「それは、俺がはなを好きだからなんだろう」

 胸の奥が震えるような感じがした。なんとなく、体が熱い。『好き』という言葉が蝶のように、胸の奥でふわふわと飛び回る。自惚れが熱を帯びて、水月と距離が縮んだなんて幻を見る。水月を知ったような幻を見る。

 「ねえ、はなは風景以外には描かないの?」

 「えっと……描こうと、思ったことがない……かな」

 「それはたぶん、もったいないよ。せっかくなら、なんでも描いてみた方がいい」

 「たとえば?」

 「抽象画とか、具象画でも風景じゃない人物とか、食べものとか」

 「かつ丼……」

 「描きたいとか描いてみようと思えるならなんでもいいと思う。かつ丼でもとんかつでもからあげでも」

 「天ぷらも」

 「いいと思う」

 「春は和菓子、夏は野菜、秋は果物、冬は鍋料理」

 「夏は鮮やかになりそうだね。トマトにナスにきゅうり……」

 「ゴーヤはだめ」と勝手な好き嫌いをつっこんでみると、「あれは大人の食べものだ」と水月もうなずいてくれた。

 「水月もゴーヤは嫌い?」

 「腹の底からうまいとはいえない」

 「あの苦味をおいしいと思えるときってくるのかな」

 「あと二十年は先になりそうだね」

 「三十六歳になればわかるのかな」

 「その頃には生でかじってるかも」という恐ろしい冗談に「うっそ」と声が飛びだす。

 「ていうか、あれって生で食べられるものなの?」

 「聞くところによると、あれをサラダで食べる人もいるらしい」

 「炒めてもあれだけ苦いのを生で? 物好きさんか、実は生の方が苦味が少ないかのどっちかなんだろうね」

 「今度試してごらんよ」

 「なんてこというの!」

 「一緒に後悔しようか」

 「そういうことでねえのよ」