花水木

 放課後の土手で、すぐ隣に座られるまで水月に気がつかなかった。

 声がでるまま「びっくりした」といってそちらを見ると、彼は「集中してるようだったから、声かけられなかった」と笑った。

 「わたし、ちょっと本気でやる」

 「今まで本気じゃなかったの?」

 「意地の悪いこというね。いやね、ちょっと、黙らせたい奴ができたの」

 気まずそうな表情を作って、唇にチャックがあるように手を動かす水月に、「違うよ」と笑い返す。「水月じゃない」

 「誰?」

 「お父さん」

 「なにかいわれたの?」

 「いや、大したことじゃないの。いわれたってわけでもないし。でもわたしって器が小さいからさ、むかつくなーって思って」

 「負けず嫌いだね」と笑う水月に「負けず嫌いだね」とうなずく。

 「ちょうどいい。俺も気を引きたい人がいてね」

 「葉月?」

 「一人はね」

 「そう何人もの気を引くもんじゃないよ」

 「それは遠回しに断られてるのかな」

 さらりと返ってきた言葉に、かっと顔が熱くなる。

 「かわいい」という声に「うるさい」と返すと、「人は本当のことをいわれると怒る」と返ってきた。

 「そういうことじゃないでしょ。ばっ、あ、あーもう、はい増えましたー、黙らせたい人増えましたー」

 「はなが望むなら黙るよ。シットっていってくれればおとなしく座ってる。まあ、その目の前でほかの人とあまり楽しそうにされたら、嫉妬するかもしれないけど」

 途端に空気がしんとして、乾風が吹いてきたような心地がした。

 「ええ……? なに……?」

 「気を引きたいからね」

 「気が引けることはないの?」

 「あそこまで喋っちゃったら、引くに引けなくてね」

 「こっちはどん引きだけど」

 「俺はめげないよ。納豆のように粘り強くいようと思って」

 「糸引いてるじゃん」

 「ああ、でも納豆はにおうな。あまり好かれないかもしれない」

 「あっ、わたしは納豆、嫌いじゃないよ。結構おいしい」

 「後を引くか」となんでもないようにいう水月に「やかましい」と苦笑する。

 「ちょ、もう、さっきから引きっぱなしだよ。ちょっと締めていこう」

 わたしの不恰好な言葉に、水月は「身を引き締めて」とのっかってくれた。おかげで本当に空気が切り替わり、身が引き締まるような感じがした。