「えっ!?い、いえ!綺星くんのことを少し聞けたらそれで…!」
「ふふ、可愛らしいわね。せっかくだから休んでいってちょうだいな」
――…予想してなかった展開に、頭の中がパニックになる。
「お、おじゃまします…!」
ファーのついたスリッパをはいて廊下を歩いているときの、ドクドクと飛び出そうな心臓が緊張をよく表していたと思う。
「これ、つまらないものですが…!」
「あらっ、まぁ!わざわざ買ってきてくれたの!?気を遣ってもらっちゃって…。ありがとうね!」
案内されたリビングの開放感と、焼き菓子の良い香り。
次から次へとやってくる情報を、少しずつ処理することでいっぱいいっぱいだった。
「なさちゃんって、漢字どう書くの?」
「菜の花が咲くと書いて、菜咲…です」
「まぁ!可愛らしくて素敵ね!」
…同じだ。綺星くんのように、話しやすい雰囲気を作ってくれている。
明るい声色とやさしい表情が、何よりもそれを表していた。
「綺星が呼んでいたのは、あなただったのね」