「ふっふふふ……! 紳士的ですって? あんな子供みたいな人の何処が紳士的って言うのかしら!?」
「紳士って言葉の意味を分かっているのかしら?」
「まあまあ、あまり言ってはいけませんわ。あんな辺境の地でまともな教育を受けてるとは思いませんもの」

 心底おかしそうに笑う令嬢達に構う事無く、私は次の言葉を放つ。

「少なくとも、こんな大衆の目前に愛人連れ込んで恋人に別れを切り出す男よりは、紳士的で優しい方だと思うわ」
「な……!? あなた、王太子殿下を侮辱なさるおつもりなの!?」
「あら? 私は別に王太子殿下だなんて一言も言ってないわよ?」
「え……だ、だって今のはどう考えたって……」
「どう考えたって王太子殿下だと? まあ……あなた、王太子殿下の事をそんな酷い男だと思っていたの?」
「そ……そんなことは――」
「いいのよ。とても正直で凄く良いと思うわ。あんな不貞な男が将来の国王なんて不安よね。私もそう思うわ」
「ちょっと! 私はそんな事思っていないわよ!」
「あ、ごめんなさい。私って時々人の心の声が聞こえちゃうの。あなたの心の声をつい言っちゃったみたい。てへ」
「なによ……なんなのよあんた!?」

 青ざめる表情は今にも泣き出しそうなほどに目に涙を浮かべている。
 
「おい! 私の娘に何をしているんだ!」

 突如横入りしてきたのは小太りの中年男性。
 顔を真っ赤にして口元を震わせ、私と対面していた令嬢の前へと割り込む。

「お父様ぁ! うっううう……」
「ああ、マーガレット。可哀想に……怖かっただろう」

 感動の再会とでも言うかのように、マーガレットは涙を流して父親に抱きつき、父親はよしよしとその頭を撫でている。
 そしてすぐにギロリと目を尖らせ私を睨み付けた。