「……つまり、北の辺境伯は公爵様の援助を受ける為に、娘をあの男の婚約者として差し出したという事かしら」

 その言葉に、廊下に一歩踏み出していた私の足がピタリと急停止した。

「きっとそうに違いないわ。もしかしたら公爵様の方がそれを狙っていたのかもしれないわね。だってあんな男の婚約者になんて誰もなるはずがないのだから」
「確かに、それなら辻褄が合うわね……。でも公爵様も可哀想よね。本当ならヴィンセント様が爵位を継ぐはずなのに、あのような無能になるなんて……」
「ふふふっ……知ってる? 公爵様も昔は無能って呼ばれて――」

 ガァンッッ!!!

 突如、けたたましい音を会場内に響かせたのは私の右の拳だった。
 開け放たれていた木造の扉には、私が怒り任せに叩き付けた拳の衝撃でえぐられた様な凹みが出来ている。
 扉から拳を離すと、粉々に砕けた木くずがパラパラと床へ零れ落ちた。

 会場内のざわめきは瞬時に静まり、人々の視線は私へと集まる。
 だけどそんな事もどうでもよくなる程、私の胸の内は怒りで渦巻いている。

「ふざけんじゃないわよ……」

 怒りを含ませた一言をポツリと呟く。

 私は血が滴り落ちる拳を固く握りしめたまま、三人組の令嬢達へと視線を向ける。
 彼女達は私と目が合った瞬間、ビクッと肩を大きく跳ねさせ、怯える様に身を寄せ合い震えだした。
 静まり返る会場内に、コツッコツッとヒール音を奏でながら私は真っすぐ進む。

 向かう先はもちろん、真っ青に顔を染めた令嬢達の所。