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 十二の時、俺の母上は亡くなった。

 弟を出産した母上は産後の肥立ちが悪く、驚く程あっけなくこの世を去った。
 母の葬儀の場。未だに死を受け入れられなかった俺に、父上は語りかけてきた。

「ヴィンセント。女性とは儚く脆い存在なのだ。だから女性には優しくしなければならないぞ」

 母上の死と共に心に植え付けられたその言葉は、俺の中で絶対的なルールとなった。



 
 幼い頃から俺の周りには多くの女性が寄ってきた。恐らく、父親譲りの端正な顔立ちと言われるこの顔のせいなのだろう。
 昔は適当にあしらっていたが、母上が亡くなってからはぞんざいに扱うような事は出来なくなった。
 声を掛けられれば話をするし、困っているようであれば手を差し伸べる。
 間違えても彼女達を傷付けるような事はしないようにと気を配った。
 
 だが、そんな俺の態度は大きな誤解を招くらしい。

「じゃあ、なんで私に優しくしてくれたのですか!?」

 俺に想いを告げてきた女性に、やんわりと断りを入れると決まってこの台詞が返ってくる。
 俺にとって、女性に優しくするのは当たり前の事でそこに特別な意味なんてなかった。

「別に君が特別だから優しくした訳じゃない。勝手に勘違いしたのはそっちだろ?」

 と口にしたいが、その言葉はグッと喉の奥に飲み込んだ。
 女性を傷付けるような事は言えない。
 そうするくらいならと、自分が我慢する事を選んだ。

「誤解させるような事をしてすまなかった」

 ただひたすらに、自分の非を認めて謝罪を繰り返す。一方的に責め続けてくる相手が納得するまで。

 なんで俺が謝らなければいけないんだ……。

 決して口にする事のない本音は心の奥深くに埋め続けて――。