そしてどういう訳か、私がお金目当てでヴィンセント様と婚約したという話になっている。
 なんでよ。クリスティーヌ様と王太子殿下が結ばれた時にはお金の話なんて一切出なかったじゃない。そこは同じ様に身分差を越えた恋っていう夢のある内容にするべきじゃないのかしら。
 ちょっと納得がいかない。……でも、こっちの方が自然かもしれない。大抵の人は誰かが幸せになる話よりも、不幸になる話の方が好きなのだから。

(……なぜだ? どうしてレイナの方が悪く言われているんだ? 明らかにおかしい行動を取っているのは俺の方なのに……)
 
 その声に顔を上げると、さっきまで笑ってみせていた彼の顔は、完全に素の表情となっている。

(そうか……。俺がこんな姿を見せてしまうと、一緒にいるレイナの評判まで落としてしまうのか……)

 グッと悔しそうに口を噤む彼に、いたたまれなくなった私は声をかける。

「ヴィンセント様、休憩室へ参りましょう。服も何か代わりの物がある筈です。さあ――」
「あ……」

 私がヴィンセント様の腕に手を絡めようとした時、その身を引かれてしまい、私の腕がするりと抜けた。あからさまな拒否反応に、少しだけ寂しさを感じる。

(すまない、レイナ。だが俺と一緒にいると君まで笑われてしまう。今日はもう、なるべく傍にいない方がいいだろう)

「ごめん、レイナちゃん。休憩室には僕一人で行ってくるね。国王様が来る頃には戻ってくるから……またあとでね」

 影を落とした様な笑みを浮かべ、いつもより少しトーンを抑えた声でそう言い残すと、ヴィンセント様は足早に会場から立ち去っていった。

(レイナ、本当にすまない。君を傷付けるつもりはなかった。俺の考えが足りなかっただけなんだ……。やはり、こんな俺との婚約なんてさっさと無くしてしまった方がいい)

 私を気遣う心の声が、頭の中に優しく響いた。