「真実の愛?」

 酔いしれる様に語る王太子殿下に、エミリア嬢は冷めた視線を向けたまま雑に問う。

「そうだ。何よりも誰よりも愛しい存在。何を犠牲にしてでも守りたいと思った……それがクリスティーヌだったんだ」
「カロル様……嬉しいです」

 瞳に涙を潤ませ見つめ合う二人の姿を、演技臭いと思ってしまうのは私がひねくれているからだろうか。

「愛しているよ。クリスティーヌ……。君さえいれば、僕はもう何もいらない」
「私もです……。カロル様。愛しています」

 うっとりとした眼差しを交わし合い身を寄せ合う二人は、計算され尽くしたかの様に照明が一番よく当たる場所に位置取っている。
 周囲からはザワッと歓声が上がり、観衆の中には瞳を潤ませ感動する姿を見せる者も。
 身分差を乗り越えて結ばれようとしている二人と、それを見守る客集。という、まるで演劇の舞台でも見ているかの様な一体感がこの場に生まれている。
 そんな中、一人孤立しているエミリア様は呆れた様子で再び溜息を吐き、肩を落とした。

「……分かりました。でしたら私はもう、ここにいる必要も無いという事ですね。国王陛下に合わせる顔もありません。これで失礼させて頂きます」

 深々と頭を下げると、エミリア様は凛とした表情で王太子を真っすぐ見つめた後、潔く踵を返した。
 その後ろ姿に向かって王太子が呼び止める。

「待て。貴様には僕の婚約者を虐めた罪の罰を――」
「その件に関して、私は何も申し立て致しません。そちらの決定事項に従いますので。では、末永くお幸せに」

 背を向けたままそう言うと、エミリア様は振り返る事なく会場を後にした。

「ちっ……やはり可愛げのない女だな」

 ボソリと呟いた王太子殿下の声は、きっと誰にも届いていないだろう。

 地獄耳の私以外には。