あまり使う事の無い頭を必死にフル回転させた私は、ヴィンセント様の腕に手を絡ませ、体を出来る限り密着させた。
 上目遣いでヴィンセント様を見上げ、ぷくっと口を膨らませて、少しだけ眉尻を吊り上げた。

「もう……ヴィンセント様は私の王子様なんですからね! みんなの王様なんて私は嫌です!」

 そう言い放つと、ヴィンセント様はキョトンとした顔でぱちくりと瞬きしてこちらを見ている。
 さらに私は眉尻を下げて瞳を潤ませる。

「これからもずっと、私だけの王子様でいてください。そしていつか、こんなに素敵なお城の様な二人の愛の巣を作って、そこで一緒に暮らして幸せになれたら……なぁーんて。てへ」

 ……自分で言っておいてなんだけど。これは無いわ。最後らへん恥ずかしくなって誤魔化そうとして一言放った言葉も余計すぎた……。

 目の前のヴィンセント様も、どういう顔をすれば良いのか分からないように戸惑っている。ってちょっと待って。全部あなたのせいなのよ……? あなたが私にこんなセリフを言わせてるのよ……? それなのに「何言ってんだこいつ」みたいな顔は私に対する深刻な裏切りだわ。

(……)

 心の声も黙ってないで何か言って。

「……あっはは! レイナちゃんったら、冗談だよー! 僕はずっとレイナちゃんの王子様だからねー!」
「まあ、ヴィンセント様ったら! うふふ!」

(……王子様ってどういう事だ?)

 知らないわよ。あまりぶり返さないでほしい。記憶から消してくれるかしら。