王宮へ到着し、馬車から降りた私達は、一斉に注目を浴び始めた。

 私達が乗ってきた馬車は外装に公爵家の家紋が掲げられている為、結構目立ってしまう。
 恐らく皆、公爵様が馬車から降りて来ると思った筈。
 だけど、降りて来たのが私とヴィンセント様だったから、皆一同に首を傾げた。

「ねえ、あの方って……公爵令息のヴィンセント様じゃなくて?」
「あの事故以来、社交界に顔を出した事は無い筈よね?」
「噂通り、物凄く美しい人だわ……。でも、性格に難ありなんですって?」

 ヴィンセント様は目にかかった前髪を手でかきあげると、フウッと一息つく。
 その姿を見た周りの令嬢達からは感嘆の溜息が聞こえてきた。
 たまに見せる彼の素の動作って、いちいち色気があって美しいのよね。
 本人は別に何の気なしにやってるのだろうけれど。

 コケた時に出来た顔の傷はお化粧で綺麗に隠す事が出来たし、汚れていた洋服も着替えを済ませた。
 今のヴィンセント様が着ている服は私のドレスと同じ青を基調としていて、雰囲気がとても似ている。
 恐らく、着替える事を前提として用意していたのだろう。さすが公爵家の使用人は格が違う。

 その事に感心していると、隣にいるヴィンセント様が大きく息を吸い込み――。

「うっわぁー! おっきいお城!! 僕のお屋敷もおっきいけど、それよりももっと大きい建物なんてあったんだね!」

 澄んだ青い瞳をキラキラと輝かせながら、大きな歓声を放った。
 ヴィンセント様を見つめて、頬を真っ赤に染めて惚けていた令嬢達は、一瞬にして白くなり硬直した。
 他の男性陣達も訳が分からない様子で、口を開けたままこちらに注目している。

 そんな人達を尻目に、私は軽く咳払いをしてヴィンセント様に話しかけた。

「んんっ……そうですね。本当に、とても御立派な王宮ですよね。この国で一番高貴な建物ですから当然の事です」 
「そっかぁ……レイナちゃん! 僕も王様になったらこんな立派なお城に住めるのかなぁ!?」

 おっとこの男、とんでもない事を言いだした。王宮の目の前で。