あまりにも心の声の口が悪いので、私も嫌がらせのごとく彼にベタベタと近付いたりもした。
 案の定、あっという間に彼の全身は鳥肌まみれ。心の声は(離れろ!)の一点張り。
 それなのに、体も心も拒絶しているのにも関わらず、彼は決して私を突き放そうとはしなかった。

「あはは! レイナちゃんくすぐったいよ~!」

 そうやってニコニコと笑いながら無邪気な子供をかたくなに演じ続けてみせた。

 そんな姿に、彼がここまで女性嫌いを拗らせてしまった理由を見出した気がした。

 よく考えてみれば、心の中では何を思おうと自由だ。口に出さなければ分からないのだから。
 私だって、時にはとても口には出せないような事を心の中で思う事はある。
 どちらかというと、心の声が聞こえてしまう私の方が異質な存在なわけで。
 彼は誰かを悪く言ったり傷付ける様な事は何もしていない。
 心の中でくらい不満も言いたくなるだろう。こんなにも胸の内を表に出さない様に我慢し続けてきたのだから。

 それならと、私もすぐに嫌がらせをやめて適度な距離を保つようにした。
 子供を演じる彼にも真摯に向き合い、心の声にも耳を傾け彼が嫌がる様な事は極力避けた。 
 そうしているうちに、彼は私を女性という一つの括りで考えるのではなく、レイナという一人の女性として接してくれるようになった。
 それからは、刺々しかった心の声も段々と丸くなっていった。