桜が散り、毛虫だらけだった木の幹にはいつの間にか蝉が止まっている。夏風にそよぐ青々とした木々の上には入道雲が頭を覗かせていた。気温は体温に近く、子ども達は真っ黒に焼けた身体に水筒をぶら下げて走り回り、夏休みを謳歌しているようだった。
しかし、幸夏は体調が悪く、一日中眠っていた。医師や看護師が病室に顔を覗かせ、窓を開けても起きる気配はない。だが、閉じられた瞼の下で眼球は激しく動き回っているため生きていることは確かだった。