「てーーしーーー」
と、その時。
後ろの扉が開くのと同時に声がした。
またまた、黒いスーツを着た人だ。
「ん?客か?札、出てねーぞ」
ボサボサ頭の黒縁メガネ。
声は2人と違って甲高い。
「客じゃない」
「ん?」
メガネを直して、じーっと私を頭から足まで見てきた。
「JKじゃねーかよっ」
「わっ…」
急に寄られて思わず仰け反る体。
「君、いくつ?」
「えっ、と」
以外にも、この困惑する状況を助けてくれたのは笑氏さんだった。
「てめぇ、一旦退け」
「女子高生いるなら早く呼べよなぁ〜?」
肩をグッと引かれ、そのまま尻もち。
助けてくれたというには雑な扱いだったけれど、間に入ってくれたことは間違いない。
「テシの連れだぜ?」
「…ん?なんて?」
「テシの連れ」
「は?まじ?」
メガネさんの視線につられて後ろを向くと、堕天使くんは書類のようなものの記入に移っていた。
「おい、テーシー。どーゆうことか説明してくれ、頼む」
「…」
「ここで無視かよ、ああ、そうですか」
甘ったるい声からキツいがなり声。
感情・声の振れ幅が著しい彼は、再び私に焦点を当てた。
「君、いくつ?」
「じゅ、じゅうろく」
「うんうん、いい年頃じゃないかぁ」
ぞわりと身の毛がよだつ。
率直に申し上げると、気持ちが悪い。
「そのくらいの歳が.....ん?ちょちょちょ、君!」
こんどは突然私の手に握られていたスマホを指さした。
「そのステッカー、初回限定盤特典では!?」
私はスマホを買ってもらった当初より、クリアケースとスマホの間に写真やお気に入りのイラストをいれている。
今は何をいれてるっけ、と裏返しにして確認すると、そこには私の大好きなボーカロイドのステッカーが1枚。
「な、なんで知って…まさか」
「しかもこれ…ファーストアルバムだから、めっちゃ前の…」
「その、ファンの方から頂いて…」
このステッカー1枚を見ただけで、入手方法から発売時期がパッと出てくるなんて...。
私とメガネさんは数秒を視線の会話に使い、同時に手を差し出した。
お互い、握る力が強く、私に限っては骨が折れるのではないかと思うほど。
「俺も好きなんだよ...!」
「本当ですかっ!?」
「いやぁ、まじか!初めて会ったわ」
「私も...!」
私たちが話している共通の話題は、とある人気ボーカロイド。
世の中には彼女のことが好きな人が沢山いるんだろうけれど、私は友達が少ないためリアルで会ったのは初めて。
メガネさんも同じような感じなんだろう。
「ところで、ファンって?」
「えっと...私、歌い手やってまして」
「えっ!?なんて名前?」
「Neってかいてエヌイー...」
「えっ!?!?!?」
ここ一番の声を出したメガネさんは、目を見開いたまま固まってしまった。
「マジ?」
「マジだぞ、ほれ」
いつの間にか私のチャンネルを開いていた笑氏さんが、先程とは違う曲を流した。
5秒ほど流して止める。
そして、私に歌うよう指示した。
冒頭の笑うところだけでも…。
「...えっと...”わひゃっひゃ”...てな感じで」
そして、次にメガネさんはその場に崩れた。
最後には肩膝立ちで私の手を取って甲にキスした。
「私、ススムという名で通ってます」
「は、はぁ...」
「貴方様の歌声に惚れたのは半月前ほど。チャンネル登録もしております」
「.....えぇ!?!?リスナーさん!?!?」
これは驚いた。
何年も動画を投稿し続けている割に、全く有名では無いから、リアルでリスナーさんを見るのは初めて。
