拓斗と歩いていると、金木犀の甘い香りが爽やかな秋風に乗って運ばれてきた。
「あそこの金木犀の花、たくさん咲いてる。もう10月だもんな」
「うん、良い香り」
──スンスン。
金木犀の香りを堪能したいわたしは、思いきり鼻から息を吸い込む。
「ああ、癒されるなぁ。わたし、金木犀の香りって大好き」
「分かる。良い香りで俺も好き」
……確か金木犀の花って、桜の花と一緒で短いよね?
このままずっと散らないで欲しいなぁ。
もっと長い間、この甘い香りを楽しんでいたいのに。
桜のようにあっという間に終わっちゃうなんて、何だか切ない。
「そうだ、音寧。今日の放課後カフェ行くときに、街でハンドクリームとか入浴剤とか、そういう金木犀のグッズも見に行く?」
「えっ、いいの?」
「おう。本物には負けるかもしれないけど、それなら金木犀が散ってからでもしばらく自分で香りを楽しめるだろ? だから、元気出せ」
わたしの頭に拓斗の手のひらが乗る。
凄い、拓斗。まるでわたしの心を読んだみたいだ。
「ありがとう、拓斗!」
「今日の放課後デート楽しみにしてるから。今日も学校頑張ろうな?」
「うんっ!」
わたしは、拓斗に思いきりハグをした。



