「あのーすみません、谷山先生。ちょっといいですか?」
「何だ? 杉山」
谷山先生の鋭い視線が、拓斗へと向けられる。
「小橋さんの教科書、さっきからずっと俺が持ってました。俺、宿題やってくるの忘れちゃって。彼女に教科書借りてたんです」
「……そうなのか?」
「そうなんですよ。だからこれを今、小橋さんに返してもいいですか?」
そう言うと拓斗は自分の席を立ち、わたしの席へとやってくる。
「はい……ありがとう、音寧。助かったよ」
「えっ、たく……」
この教科書はわたしのじゃなくて、拓斗のものなのに。
「これ使って。音寧は何も心配しなくて良いから。あとは俺に任せて」
拓斗が耳元で、わたしにだけ聞こえる声で言った。



