「ラジ、覚えてる?マイケルがギルドのラボで、公開錬術をした日の事。」

リドの回想は途切れて、
意識はカフカス王帝領国に構える、
海を統べるギルドの支店へと
戻る。

カフカス王帝領風な重厚な様式を
建物に取り入れた長室。

いまだウーリウ藩島のギルド本店と
繋げた魔力回線で、
リドとラジの2人の会話が
行われ続けていた。

「リドがマイケルと会って直ぐに、連絡を寄越した、あの日か?忘れるわけがない。」 

魔力回線の向こうから聞こえる
ラジの低音な声にリドは、
頭頂で纏めたストレートブラウンヘアーを
コックリと縦に揺らして
話続ける。
 
「よね!わたしだって、後にも先にも、あんなに興奮した経験はないわ!!魔術なんて殆ど知らない、魔力なしのマイケルが、藩島城きっての術師ハーバナに激を飛ばしながら複数の綿密魔法陣を展開させて、書き換えや、合成をさせるのよ!」

「水龍の骨に魔力を付加させる術式の可視化、、よくそんな考えに至ったものだと関心した。我らでさえ感覚で魔力を使う。他者への付加であっても、体得訓練で出来るようになるのだから。」

「子ども達に教えるのも、魔力の使い方がほとんどだもの。そりゃね、職人や技術者としてなら別よ。マイケルのあの感性は、持って生まれたものなのかしら?」

リドは日焼けしたスラリと伸びる腕を、
通信ウインドウの前で再び折り曲げ
頬杖を付く。

「ワズに1度だけ、ヤツ専用の鑑定眼鏡をマイケルに覗かせた事があるらしい。その時に、考えたと話していたが、、陣の様子には、マイケルは何か法則があると感じたのだろう。」

ウインドウの向こうでラジは、
精悍な顔を考え深そうな表情に変えた。
そんな
元英雄のラジの益荒男を、
リドはウインドウ越しにラジの眉間に指を立てる
悪戯をして微笑む。

「でなきゃ、あんな指示は出来ないわね。そもそも、わたしだって、初めて見たわ!複数の陣が可視化して展開されるなんて光景。あれは、もう、、そうねまるで 鮮烈なピロテクニマが幾つも、ラボの空に展開されたみたいだったわ。」

「ああ、、そうだ。そんな神々しい風景だった。、、、しかし、、魔力とは、、何処からくるものか、、か、、いつかの会議で、マイケルが予言した前兆が、、今回の魔力減退現象なのかもしれぬ。」

ウインドウの向こうで、
ラジが鬣の髪を揺らしながら
さらに表情を硬くして、リドを見つめる。

「ガルゥヲン皇子のような世継ぎの出現も?」

リドはほっそりとした指に
横に置いていたパイプを再び絡ませ、
赤い艶のある唇に管を添える。
そして、
紫の煙を細く吐きつつ、
ラジに 何気ない質問を投げ掛けた。

「いや、ガルゥヲン皇子は変異現象ではない、強いて言うならば遺伝だろう。」

「?、、、」

しかしラジから返された内容に
リドは一瞬、躊躇う。

「遺伝? 王弟将軍直々から生まれた皇子よ?本来なら膨大な魔力持ちでしょ?ねぇ、なら母親の遺伝という言葉かしら?でもテュルク将軍が起こした奇跡の受胎でしょ、、、じゃ、、ないの。」

「・・・・」

「もしかして、母親がいたわけ、、」

ギルドの支店がある
宮殿通りが窓から見下ろせ、
リドは
先程の急な雨が止んでいる事に
気がついた。

「王弟将軍の腹から直接生まれ奇跡から、母胎の話は当時から皆無だった。余りの信じられない状況に、神話の再来と王領国が賑わったが、それ以上の奇跡も起きていた故に立ち消えたとうのが正解だろう。」

リドが、執務室のウインドウから
窓の外へと視線を移す。

空には大きな虹が出ていたのだ。

「旧ウーリュウ藩島の夜明け。突然、藩島が虚空に浮いたもんだからね。まるで、空に現れた虹みたいに。」

リドの呟きに、

「マイケル。じゃないかと思う。」

ラジが突然、これまで口にしてこなかった事を
リドに告げる。

「!!、、あの子がいたら、今のカフカスを見たら何て言うかしらね。」

リドも敢えて、ラジの言葉に驚きもせず
窓に掛かる虹を見つめた。
2人だけの遣り取りだからこそ、
夫ラジが吐露した心内だと解っている。

そんなリドの様子を、 
執務机に置かれたウインドウから見るラジが、

「元英雄なぞ、何も役に立たんものだ。」

己の額に片手を当てて、珍しく悩んだ様子を
己の妻に見せた。