「魔充石に能力以外を付加する?
 それに魔充石自体を材料にする?
 意味がわからないんだけど?
 どういうことなんだ、マイケル?!」

マイケルの提案を聞いた
ナジールの紺色の髪が驚きで揺れ、
隣のハーバナも、
濃茶色の纏め髪を飛び上がらせる勢いで
目を見張る。

此処はナジールの工房。
シルウェステルの賑わいは城下に入ると
一段と華やかになるが、
ナジールの工房は奥まった位置の為か
喧噪が嘘のように静かだった。
が、、

『きゃあ!へんなのあるの!』

ヤオは屋台を見るより目を輝かせ、
工房の試作品なのか、可笑しな動きの品で
大騒ぎをしながら遊びだす。

「今の魔充石って、付加した魔力を溜めて
 引き出すだけでしょ?それだけじゃ勿体ないと
 思わない?そりゃ、あたしも最初は
 魔充石の使い方が解っていたわけじゃないから、
 想像もしなかったけれど。ほら?ナジールが
 ヤオの両親に義足と義手を作ってくれたじゃない?
 あれで思い付いたんだよねー。」

ヤオの様子を目の端に引っ掛けつつ、
マイケルは工房の石板に自分の考えを書き出した。

ナジール達の本宅でアトゥンのステーキを平らげ、
さっそくナジールとハーバナに
魔充石の加工を提案する。

「いや、あれは単に魔充石を義手に作りあげて、
 『オート可動』の術式を着けただけだよ?
 『念力能力』の応用陣を入れ込んだ感じだからさ。
 大変だったけれど、マイケルの頼みだから。」

ヤオの両親の話は初耳のハーバナに
ナジールは、
魔充石で作った義手や義足の図案を渡した。

「あのねナジール。
今の言葉だけでも、魔充石の可能性をナジールは、
大幅に広げてくれたんだよ?」

図面を熱心に見るハーバナを横に、
マイケルはナジールの言葉尻を捉え、
ナジールに諭すが如く指を立てて説明する。

城下町で藩島で一二を争う商会を開く
タヌーの息子ナジール。
物質の構造を分解析する能力に長けたタヌーと、
魔道具を製造する
スペシャリストとして工房を開くナジールは、
マイケルが水龍の骨に付加した
ヤオの『遠見』の魔力を加工を
依頼した
始めの職人親子だ。

「魔充石の可能性を実用可能にした、
第一弾の画期的な物だったのよ!」

ウーリュウ藩島という限られた土地の島。
水道、電気、ガスライフラインを引く為、
マイケルが魔充石の応用加工を考えたのは
かなり早い時期からだった。

『なるほど、マイケルの考えは
大体予想できる。魔力や能力の
保存と取り出し。手軽な加工と
付加。もし、この骨に全ての
可能性が備わっていたならば、
魔力加工に革命が起きる発見だ。』

かつて、

初めて水龍の喉仏の骨を
ギルドの長=ラジに見せた時に、
ラジが言った言葉が、
今、予言になるのだ。

「今までは、魔充石に魔力を付加
をして其のまま使ってきたのは、他国の奴隷を
魔力電池にする考えを無くしたいからだった。」

マイケルにとって、調整世界で家族同然のヤオ。
ヤオの親は他国で奴隷印を押され、
逃亡してきた者達だった。
そして、
ルークに連れられたダンジョンで
マイケルが見た、
奴隷の魔力電池さながらの酷い扱い。

「そこから一段階次に進めて、魔充石の可能性を
 広げたいの。其の為にナジールはハーバナを、
 紹介してくれたんでしょ?できれば早急に取り掛かって、
 販路にも乗せたいし、藩島民の生活も変えたいって
 思っている。それが思想を変える始まりになる。」

(傲慢かもしれないけれど、、
 あたしも時間が無いから。)

ゆくゆくは元の世界に必ず戻る。
それがマイケルが大師と交わした約束。

(もちろん直ぐにでも、藩島城の地下に潜りこんで、
 転移門から帰還したいよ?でも、それじゃあ、
 ヤオ達みたいな住人はどうなるの?せめて島民ぐらい
 の生活を送って欲しいし、その水準を上げたいじゃない。)

「マイケルって、、いったけ?
 君は下々の生活から、何かを変えれるって
 考えているのかい?もしかして反乱とか、、」

マイケルとナジールの遣り取りに、
それまで図面を解析していたハーバナが
徐に顔を上げた。

「国家転覆なんて考えていないわ。出来れば、
 女官試験を受けたいって思ってるほどよ?」

「そうだぞハーバナ!マイケルは只、俺たちの生活が
 良くなればって考えているだけだ!たく、変なこと
 言うなら、会わせるんじゃなかったなぁ。」

ハーバナの物騒な言葉にマイケルは目を丸くし、
ナジールは一気にハーバナに詰め寄る。

(さすが城務めの、、公務員って感じ?)

ハーバナも冗談だと言うが、
マイケルを見る瞳に
警戒の色が残っている様に見える。
そこで
ナジールが、話を変える様にハーバナに問うた。

「ああ、そういえばラジにマイケルの案を
 知らせたら、うちの親父以外に人脈の販路も
 必要だろうって、王都支店長をよこすってさ
 知らせがあった。ハーバナは知ってるか?」

「さあ。僕も藩島城務めで、島から出ないから。
 でもエックレーシアで、他国からも出入りが
 あるから、きっとカフカス王領だけでなく、
 近隣諸国にも顔が利く人なんじゃないか?」

「あら、わたしの噂話を丁度聞けるなんて光栄だわ!
 わたしがカフカス王都・海を統べるギルド支店長にて、
 英雄ラジの伴侶リドよ!以後お見知りおきを!」

いきなりマイケル達の背後から
快活なセリフが投げ掛けられ、
全員が振り返る。

其処には、
長いストレートブラウンヘアーを
きっちりと頭の頂点で纏めた、
日焼け肌の妙齢な婦人が、
工房の戸口に凭れて、腕を組んでいた。

『きれー』

試作品を片手に、ヤオが婦人に見惚れる。

「あんたが英雄の女神リド!!
 噂の支店長さまの登場か!!」

ナジールの声に、
日焼けの褐色が艶めかしいが、
顔立ちと佇まいは妖精の様な美貌の主が
にっこりと微笑んだ。

ナジールは知っている間柄なのか、
リドに向かって握手を求めつつも工房の中に
彼女を招く。

(なに!!すごい人外美人?エルフっぽい。)

此の調整世界は
魔法や魔獣が存在するにも関わらず、
元世界と近い世界の為か、
幻獣や妖精といった霊族は
目に見えない存在とされる。
 
そんな霊族を思わせるリドの風貌は
女性のマイケルが見ても妖艶だった。

「大陸で名だたる女傑の一人、リド殿ですか。
 わたしは藩島城の技巧師ハーバナと
 申します。握手をしても?」

ハーバナが長い濃い髪を片耳に掛けながら、
ナジールに倣って片手を差し出す。

「ハーバナね!よろしく。そちらのお嬢さんが、、
 マイケルさん?ラジから聞いているわ!
 よろしくね?儲け話は大歓迎主義だから!」

ハーバナと握手を交わしたリドが、
踵を返しマイケルにも片手を差し出した。

「あはは、、」

(見た目と反対に、華僑並みの商魂だったわ、、)