カフカス王帝領国に構える、
海を統べるギルドの支店。

カフカス王帝領風な重厚な様式を
建物に取り入れた長室では、
ウーリウ藩島のギルド本店と
繋げた会話が魔力回線で
行われている。

「貴方が云うならば間違いない
わね。魔力枯渇の予兆がカフカス
王帝内で始まっているという事で
しょ?わたしみたいに凡人程度の
魔力じゃ認知出来ないけれど。」

長いストレートブラウンヘアーを
きっちりと頭の頂点で纏めた、
日焼け肌の妙齢な婦人が、
通信ウインドウの前で
頬杖を付く。

『リド。再びレサをそちらの支店
へやる。辺境地域の民子達の魔
力調査と、実態見聞になるだろ
うが、サポートして欲しい。
ユジラをレサに着けてくれ。』

ウインドウの向こうに見える顔は、
海を統べるギルドの長。

元英雄のラジの益荒男に、
己が夫の顔を堪能するリドの声が
不服げに響く。

「あら、またレサが来るの?
珠には貴方が来たらいいじゃ
ない?もう2年は貴方に会えて
ないわよ?あんまり放っている
ならいっそ離縁しちゃう?」

リドはほっそりとした指にパイプを絡ませ、
赤い艶のある唇から、
紫の煙を細く吐いた。

『リドが拗ねるとは。お前らし
くないが何かあったか? ヤケラ
にはウーリウ衛星島の全面調査を
させる。其の内容によっては、
衛星島中の長連中を召集すること
になるだろう、、すまんが、
其ちらには顔を出せんのだ。』

ラジとリド。
かつての英雄と、大陸育ちの
女傑。
二人の『おしどり夫婦』ぶりは
ウーリュウ衛星島では周知の仲
でもある。

「あら!早くヤケラとユジラが
一人前になってくれなくちゃ、
何時まで立っても戻れないわ
ね。何年王帝領ギルド支店長
を、していると思う、ラジ?」

到底2人の成人した息子の
母親には見えない容姿をした
支店長リド。
カフカス王帝領では有名人であり、
既婚とて引く手あまたと
想像出来る。

彼女が離縁と口にすれば、
並みの夫ならば慌てふためく
だろうとも。

『フム。其の件は、また時間の
ある時にゆっくり話そうか。
今は更に深刻になるが案件だ。
どうやら反対の地区では、子供
達が水龍を見たと報告が来た。
これは由々しき事態だろう。』

しかし相手が夫は、
豪傑英雄のラジであり、
本人はリドの戯れにニヤリと
笑うばかり。

「水龍を見たって、、解ったわ
よ。ちょっと意地悪をしてみた
だけ。ちゃんとレサ達のサポート
は、ユジラと一緒にするわ。
これでいいわよね?ギルド長。」

此の夫婦の間に生まれた
長子ヤケラは、
ギルド本店を継ぐ為にウーリウ
衛星島で、
次男のユジラは
王帝領国の支店を纏める、
母親リドから
ギルド運営を仕込まれている。

彼等が間もなく一人前になれば、
ラジとリドが
夫婦共に暮らす日も近いが、、

「、、ねぇ、
ラジも、衛星島、スカイゲート
も大丈夫よね?もしも、、」

物憂げな表情を見せたリドは、
指に絡ませていたパイプを
煙管台へと置いた。

「スカイゲートが落ちるとか、
ないわよね?ラジだって、只で
さえ目を盲しいたっていうのに」

リドの声がさっきと違い、
どこか潜める響きを見せた。

『わからぬ。浮遊が魔力による物
ならば、次に浮き上がる事が
出来ぬかもしれん。最悪ならば
虚空時期に堕ちる事も考えねば
ならんだろう。そうならぬ為に
魔力を魔充石に貯めねばならん』

ウインドウの向こうで、
ラジが鬣の髪を揺らしながら
リドを見つめる。

「やっぱりそうなるわね。つくづ
く魔充石があって良かったけど。
それも、島を浮かせるほどに
なるとは思えないものね。」

元来のリドは、英雄の妻と言われ、
カフカス王帝領内でも女性にして
豪快な人となりを誇りとする。
しかし珍しく、
此の日のリドはやけに弱腰に
見えると、ラジは気付く。

『やはり何か懸念する事が起きて
いるのだろう、リド。王帝領では
噂話も出回るのが早い。どうだ』

「、、大した話ではないのよ。
ただガルゥヲン皇子への風評が
気になってね。魔力無しが王帝
の座に付くとかの揶揄と、辺境
の事態が、結びつけられたら、
どうなるのかと、思うのよ。」

リドが、執務室のウインドウから
窓の外へと視線を移した。

ギルドの支店は、カフカス王帝領国の都でも1番の賑わいを有する
宮殿通りに位置する。

『そもそもガルゥヲン皇子が王帝
継承第一に繰り上げられた事自体
が不可解極まりないのだ。何か
思惑があるのだろうが、確かに
これからの結果によっては、
暴徒を生む火種にはなるな。』

「これからも貴方達に、こちらの
様子は報告するわ。だから、
水龍の件も早く原因解決して
欲しいのよ。 ほら、当時マイケ
ルが水龍の事で話ていた事なんか
も、わたしも思い出すから。」

リドは窓越しに見える、
宮殿通りの賑わいに藩島の
城下町を思い出す。

かつて水龍の骨に魔力を貯めれる
発見をした、
宿を持たない異国巡礼マイケル。

彼女は水龍の骨が持つ性質を
発見したのみならず、
骨を魔充石と応用し、
さらに魔道具の考案もする。

其れからのウーリュウ藩島は
産業革命的な技術が生まれた。

彼女の発見と着眼点が
あって、
今のウーリュウ衛星島=
スカイゲートがあると言える。

『マイケルか。もう何年になるの
か、あの者が逝きてから、、』

ウインドウの向こうに見える、
ラジの顔も懐かしげに、
悲しげにく揺る。

リドは再び煙管台から、パイプを
細い指に挟むと、

「わたしが、マイケルに出会った
のは、彼女が城下町に住まいを
構えてからだから、、」

そんなラジに、
マイケルとの出来事を
回想してみせる。