ウーリュウ藩島におけるツッチーナシュウ集落は、ワーフエリベスの儀式村とされているのだと、異世界生活3年を過ぎて漸くマイケルは理解した。

 「今日はマザーエリベスから結界ラインに入るわけではないんだね。」

「マイケルしゃん、歩ける?みんな、大丈夫にいけるの?」

 今日もヤオはルッカの肩車で登山をしていて、目下マイケル達はツッチーナシュウにあるパワーポイント、『重なりし岩』へ向かっている。

ウーリュウ藩島には幾つかの半島があり、ツッチーナシュウにある半島山は禁足地らしく、マイケルも観光でも近寄ることがなかった。

(まさかツッチーナシュウに聳え立つマザーワーフエリベスと、『重なりし岩』が内部で繋がっているなんて思いもしなかった。)

「ヤオぉ、さすがに俺達もバテてくるころだよぉ。俺もルッカに乗りてーなぁ。」

 今日はギルドの副長レサも一緒だ。
 マイケルとルッカに乗るヤオ、ギルド長の元英雄ラジと副長のレサに、ツッチーナシュウ長のシンパクと聖堂からパパ・ドゥシエラ。
 そこに藩島城から城技工士のハーバナと、、、

(やっぱり来るよね。)

 内心気まずいマイケルを知ってか知らないのか、
冒険者の身なりで現れたルークがマイケル達の列に加わっている。

「シンパク殿の方がレサよりも、よっぽど高齢なはずだがな。シンパク殿は大丈夫か?」

 先頭を登るのはツッチーナシュウ長シンパクで、驚く事に、軽い身のこなしで山を移動していく。次に登るラジがシンパクに声を掛けるほどの動きだ。

「何、慣れた道だて。もう少しいけば、儀式控の小屋がある。そこで休むとしような。しかし此度はドゥシエラ樣が来てくださるとは。」

「いえ、此方こそ返って気を使わせてしまい申し訳ない。」

 ラジの後ろを聖堂の主であるパパ・ドゥシエラが並び、ギルドの副長レサが挟むよう様に護衛をする。

「休憩だな!ハァ~、それは助かる〜。早く行こうぜぇ。」

 その割には、レサは護衛に似つかわしくない悲鳴を、半時前から上げていて今も行き絶え絶えでいた。

「レサもたまにはダンジョンか海底都市に潜ったら?運動不足なんじゃない?」

 レサの後ろからマイケルがレサを揶揄すると、レサがマイケルに振り返り、拳を振り回す。

「うるさいぞーマイケル。大体お前こそ一体どんな身体してんだ?普通は足が限界ーって、女らしく泣くところだろう!」

「それ、女性蔑視だからね!これくらい登れなきゃ、異国の巡礼者が生きていけないんだよ!」

「確かにマイケルの身体能力の高さは驚く。こう見えて、筋力、持久力、瞬発力もあるのだから、ふだんの鍛錬なぞは興味深いぞ。」

 レサに向かって口を尖らすマイケルに、前を登るラジから声が降って来る。

(鍛錬か、、そういえばこっちにきてからはトレーニングなんてする暇がなかったな。)

 たまにダンジョンへ潜る時には、ルークに手合わせを願い出たりするぐらいで、ラジが云うマイケルの身体能力の高さは、元世界での令嬢として叩き込まれた『嗜み』の賜物だ。

 ふとマイケルは、列の1番後ろを歩くルークを盗み見る。

 意外にも王弟将軍ならば、それこそドゥシエラの様に警護が必要だと思うのだが、どうやら『冒険者ルーク』の間は、そういった護りさえも不要なのだマイケルは考えた。
 其の証拠に藩島城から来ているハーバナは、ルークの前を歩いており、まる冒険者ルークがハーバナを護って歩く形になっていた。

 「儀式の小屋が見えてきましたぞ、休憩にしましょうか。」

 先頭を行くシンパクが、振り返り手にした杖で、前方の木造小屋を指し示した。

 ここから先には基本禁足地で、儀式を司るツッチーナシュウの長や巫女、聖堂からの代理人しか普段は足を踏み入れないと、マイケルは聞いている。

 逆に云えば、王族でも不可侵領域の場所に、マイケル達は今から歩みを進めるのだ。

「マイケルしゃん、、怖い。」

 ルッカの頭を、抱えてヤオがマイケルに呟いた。