『※※^.*トゥララアーーーーーン
トゥララアーーーーーン
トゥララアーーーーーン※^.*』


 新年を表すネオンテトスの鐘が、半島中に響き渡る。

 此のカフカス王領国において、新年は『ネオンテトス』と呼ばれる。年末のシルウェステルを経てネオンテトスへと毎日空には祝いのピロテクニマが上げられ、カフカス王領国のウーリュウ藩島にはさらに他国民の姿が多くなった。

 それはギルドエックレーシアが、このネオンテトス中に開催されるからだ。

「ヤオ!お城にはもうすぐ着くのかな。歩ける?」

 いつもとは違う服装に身を包むマイケルとヤオ。その後ろには屈強な男が続く。

「大丈夫!マイケルしゃん!たくさん人がいてる。」

「本当だね。島の外から、商人たちがたくさん来ているんだよ。」

 キラキラと目を輝かせるヤオに、マイケルは笑いながら自分も周りを見回す。

「マイケルしゃん!クレデンシャル。」

 するとヤオが前方を指さし、マイケルの手を引っ張った。其の先には沢山の紙が貼られている。

「ここでもクレデンシャル、書いてもらえるんだ。ヤオも書いてもらう?」

「いきたい!」

「せっかくの記念だから書いてもらおうか。ギルドエックレーシアの会場のクレデンシャルってどんな文様なんだろうね。」

 ヤオはクリンクリンの髪を揺らしながら、マイケルの手を離すと、クレデンシャルの絵描き達が並ぶ藩島城の門の前まで走っていった。


 数年に1度開催されるギルドエックレーシアは、今回も藩島城の大ホールで行われるという。カフカス王領国のみならず近隣国からも商人が集まるギルドエックレーシアは、いうなれば博覧会の様なもの。
 そしてタヌー商会の会頭であるタヌーと、息子ナジールは、既にギルドエックレーシアの会場で準備をしているはずだ。

 門の両脇にはクレデンシャルに巡礼紋を描く屋台が連なり、これまでの城下街にもマルシェが並んでいた。

「マイケルしゃん、見てなの!」

 マイケルにヤオがクリンクリンの巻髪を揺らしながら振り返えり手の中のクレデンシャルを見せる。


 あの地下ラボで、ハーバナが紡ぎ出す魔法陣の錬金試作を施行した日。
 海を統べるギルドの常連職人や、術者たちはこぞってギルドから出ていくと早速、ギルドエックレーシアに参加する為、試作品を作り始めた。

 それはマイケルが考えたとおり、水龍の骨をそのまま出す様な品ではなく、水龍の骨を秘匿した材料との掛け合わせによる商品を作り上げるという流れになる。
 かくして無事、水龍の骨に関してはきっちりとギルドの管理の元、錬金方法も非公開になった。

「へぇー、ギルドエックレーシアのクレデンシャルって、こんな形を書いてくれるんだね。」

 ヤオが持ってきたクレデンシャルを覗いて、マイケルが感嘆の声を上げる。
 そこには、聖地で見るような文様とは全く違う精密なカフカス王領国の文様と、ギルドのマークが組み合わされた文様が書かれていた。

「あ、マイケルしゃん!それボンボーン!」

 クレデンシャルを自慢気に見せていたヤオが、マイケルの手にある包みを見つけた。

「そうだよ!ほらヤオ、口を開けて。」

 やっぱりねと言う顔で、マイケルがヤオが開ける口に包みから摘み上げた飴を放りこんだ。

 ヤオが文様書いてもらっている間に、マイケルがボンボーン屋台で買った飴を口して、ヤオが破顔する。
 すっかり大きくなったヤオが口を動かく様を見て、マイケルも感慨深くなる。

(かつては、食べる物がなくて、石ころを舐めていたのにね、、)

 いまとなれば、ヤオもお使いが出来る程に成長し、自分もドレスを着る事が出来る様になった
マイケル。

「おい!お前たち待てよ。」

 マイケルとヤオの後ろから声をかけてきたのは、2人の護衛についているルッカだ。

「ごめん、ごめん。ルッカ、はいボンボーンどうぞ。」

 普通の成人男性の2まわり以上はあるだろう筋肉質な身体を縮こませ、ルッカはマイケルが出した飴を受け取る。

「じゃ!いっちょ、もらうか!おー、甘!」

 髭で隠れた口元をモゴモゴするルッカに、ヤオが自分の口の中を見せながら聞く。ヤオの口は『パパネェロ味』で真っ黄色だ。

「ルッカのボンボーンは?」

「当たりのペスカ味だぞ!ヤオ、ほれ!」

 ルッカはペスカ味のピンクで染まった口を大きく開けて笑った。

 ギルドエックレーシアが間は、ウーリュウ藩島の外からも他国の商人達が集まる為、ギルドの長ラジがマイケルと、ヤオに護衛のルッカを付けてくれただった。

「ルッカ早く早く!」

「いや、いや!ヤオ!はしゃぎすぎだろう。待ってくれ、肩車してやるから!」

 そう言うとルッカはヤオを片手で抱き上げ、ストンと自分の肩にヤオを乗せた。


「肩車よかったね。」

「キャー高いのー!!」

 マイケルも飴を口に入れて、はしゃぐヤオとルッカの後ろに続く。

 マイケルとヤオの見た目は、黒めの髪に濃い目の色。
 一見するとカフカス王領国では大量の魔力持ちと見られてしまう姿をしている。ウーリュウ藩島内ではマイケルとヤオを知っている者も多い上、カフカス王領国民は遍く魔力を持っている。

 だからマイケルとヤオの2人に対して、特段何も問題は起きないが、他国民から見れば、2人は強力な魔力持ちとして価値のある存在と見えてしまう。

「しっかし、お貴族様は、そんな風に足をバタバタさせんぞ、ヤオ?」

 子どもドレスを着たヤオが、いつもと同じ要領で動くのに、ルッカが呆れた顔をする。

 今日、ヤオとマイケルが貴族並みに着飾ってきた理由は、ルッカの護衛の件と同じ。
 とにかく、平民で大量の魔力持ちとなると、ギルドエックレーシアで人が入り乱れる間は人攫いに合いかねない。そんな理由でラジが、マイケルとヤオに力持ちのルッカをつけてくれた。

 (とわいえルッカも無精髭をなでつけて、護衛に相応しい服装しちゃってるなあ。)


 そう思うマイケルも今日だけは、いっぱしの貴族令嬢だ。

 マイケルにとっては元世界では華僑の令嬢であっただけに、こういったドレスを着る機会もあったが、それも異世界に飛ばされてから3年ぶり。

(毎日、ホームレスみたいな生活だったもんね。)

 久しぶりに腕を通した絹のような素材の洋服に、朝からマイケルもヤオと同じく、心がウキウキしている。
 服装に関してはラジの妻リドが、マイケルをウーリュウ城下街でも貴族通りのある店で、カフカス王領国流行の貴族服装を全てコーディネートしてくれたのだ。

「いやあそれにしてもマイケルもヤオも見違えたな。もう貴族じゃないか?」

 ドレスで着飾るマイケルに、ルッカに笑う。

「そういうルッカだってまるで騎士様みたいだよ。さらに帯剣までしちゃって。」

「力があるからよ、帯剣なんかしなくても全く関係ないんだがなあ。島の外からの連中にすれば、刀を一つ持っているだけでも、威圧することができるだろ?力は使わないに越したことはないってなあ。」

 そうルッカはいうが、本当の貴族ならば、スチームパンクな馬が繋がれた『力車』で城に乗り付けるだろうと、マイケルは城の車寄せを見て思う。
 マイケル達は裾が短いバッスルドレスで歩いているが、本物の貴族達が車寄せに乗り入れた力車から、エスコートをされながら降りているのが見えたからだ。

「ルッカ!かっこいい!」

 マイケルが思うのとは裏腹に、ヤオはルッカの肩車に満足の様だ。

「じゃあ騎士様ルッカに乗って、中に入ろっか。」

 案内を受けて城の中に入っていくと、既にエントランスでは、たくさんの商人たちが新商品をのお披露目をしている。

「すごい!エントランスまで展示が溢れるんだ!」

「これは、、何時もより盛大だぞお!」

「キャー、マイケルしゃん!あれあれ!」


 3人が早速エントランスを抜けながらも、その盛況ぶりに驚きを隠せない。
 もちろん半島の商人達も見かけるが、中には全く何処の国かわからない服装の商人達もいる。

「あれって、もしかして、、」

 マイケルが見れば、リドが言っていたように、カフカス王領の人材なのだろう。珍しい魔力だと触込む斡旋人の横で魔力を披露している。

「珍しい魔力の使いだな、あれは。どう使われるかは判らんがなあ。」

 大きな歓声が上がるのを横目に、ルッカの後ろをマイケルは追いかけながらタヌーとナジールを探す。

「マイケルしゃん、あそこ!タヌーなの!」

 人混みで1つ頭が高いヤオが、ひと際人山になる場所を指差す。

『見て下さいよー!勝手に自分で結び目を作ってくれる魔力紐だよー!!』

『さてお立会い!履けば普通の2倍の速さで動く魔動靴!!』

 大ホールにあるタヌー商会のエリアなのだろう。馴染みの声がマイケルな耳に聞こえてきたのだ。

 カフカス王領国の商人達はタヌーをはじめ、日用品に水龍の骨を組み合わせた魔道商品を多数出していた。
 声をかけると勝手に動いて結ばれる魔道紐や、いつかヤオの両親に作ってくれた様な、勝手に動いてくれる靴なども披露されている。

「すっかりカフカス商人達の披露が場所が大きくなったな。」

 ルッカが、髭に手をやりながら、真面目な顔で呟く。

「そうなの?」

「今までは、あんな風に新しい力を発掘されたヤツのお披露目をして、商人たちに雇用されるってのが目玉だったんだ。」

 後ろを振り返り、人材斡旋の場所を指差すルッカ。マイケルがその様子を見ながら、

「やっぱり今までのはああいうふうにしか新技術はなかったんだね。」

「これからはマイケルのおかげで、ウーリュウ藩島の商人たちが売る物も180度変わるだろうな。」

(そうなると、少しは自分がやったことに意味があるって、嬉しくなるけれどね。)

「そっか、、」

 マイケルはどこか遠い目をしながらルッカに答えた。

『ジャーーーーーーン♫』

 すると突然大きなドラが鳴り、大ホールの前方にある舞台に人影が立った。

 ルッカがマイケルに前を示した。

「どうやら藩島の主たちの、おでましだぞ。」

「マイケルしゃん、あれ、王様王様ね。」

 ヤオもルッカの肩で、はしゃいでいるのがわかる。

「王様、、」

 マイケルが異世界に飛ばされて3年目。

 いつか元世界に戻るためには、此の藩島城の地下にある転移門を探さなくてはいけならず、そのためには、商人になるか女官になるかして、城に潜り込まなくてはならない。

 その藩島の主が今まさにマイケルの目の前に現れるのだ。

(何とかして此処に入れるようにならなくちゃね。)

 マイケルは真剣な表情で、前方の上段に立つの王族達に目を凝らした。