歩実「もしもし?おじ様?上手く行きましたわよ!あの生意気な女子高生、学校の校門のところで気を失って倒れちゃったんですよう!おじ様にもお見せして差し上げたかったですわ!」

翼の父「いやぁ、ありがとう!やはりウチの嫁には君のような育ちの良いお嬢さんでなければ、私としても色々と心配なんでね……今回の件が全て上手く行った暁には、是非とも歩実お嬢さんを翼の嫁として迎え入れたい!」

歩実「いやですわ、おじ様。私のようなおてんばをそう言ってくださるのは嬉しいのですけど、もし父がそれを聞いたら大笑いされてしまいますわ!」

翼の父「いやいや、翼が度重なる無礼を働いたにも関わらず、それでも翼を受け入れてくれるお嬢さんの懐の深さには本当に頭が下がる思いだよ……翼のことを宜しく頼むよ……」

歩実「おじ様!まだそれは早いと思いますわ!向こうの小娘の心は折ったけども、翼を諦めさせるもう一手が必要だと思います。その計画なんですが……」




~翼の自宅~

美麗「翼~?翼居る~?」

翼が自分の部屋のドアを開けて顔を出す。

翼「姉貴……俺はこの家から一切出れないんだから居るに決まってるだろ!」

美麗が翼の部屋に入って、二人は大きなテーブルに並べられた椅子に腰をかけた。

美麗「翼!お父さんったら歩実を遣ってキラリちゃんに酷い仕打ちを仕掛けてたわよ!」

翼「酷い仕打ち!?」

美麗「えぇ……お父さん、キラリちゃんの方から翼のことを諦めさせるように、まるで翼が歩実と婚約したかのように見せかけて……それで……キラリちゃんは精神が壊れる程のショックを受けたらしいの……ちょっといくら何でもやり方がえげつないと思うわ……だから……キラリちゃんのお母様と少し話して来たの。ごめんね……勝手なことしちゃって……」

翼「姉貴もよくそこまでヅカヅカと入って行けたな!」

美麗「あら、そういう翼だって、随分と長いことあのお宅にお世話になってたじゃない?」

翼「うっ……それは……」

翼は痛い所を突かれたと言わんばかりに顔をしかめる。

美麗「ねぇ、翼……お父さんがこれで止めると思う?」

翼「うーん……いや……きっと更に追い討ちをかけかねないな……これ以上キラリに被害が及ばなければ良いんだが……俺にはキラリを守ってやる術がない……」

美麗「まぁ、キラリちゃんにとっては私は占い師のようだから、どんなことがあっても私の魔法の言葉で立ち直らせることは出来ると思うけど……でも、見ていてあんまりにも可哀想で……本当は翼が直接キラリちゃんに信じて待たせるようなシチュエーションを作れれば良いんだけど……」

翼「なるほど!それなら一つ手はあるんだ!」



~翌日~



キラリは占い師の女性の言葉で、一度は完全に折れた心がだいぶ回復して学校に通えるようにまでなっていた。

そして、その日の放課後、凛花とキラリが家の側まで来て、いつものように二人は別れた。

そしてキラリが自宅の玄関を開けようとした時、不意に後ろから声をかけられ振り向いた。


謎の男性「あの~……キラリちゃん?」

声をかけて来たその謎の男性は、キラリの視線が斜め上を向く程の長身で、翼と比較してもなかなか優劣付け難い程のイケメン、年齢は恐らく二十代前半だろうが、屈託の無い優しい笑顔がもう少し若い印象を与える。声も少し可愛らしい柔らかな喋り方で、一気にキラリの警戒心を解いてしまった。

キラリ「はい………何で私の名前を……」

謎の男性「あっ……ごめんね。俺、フラップ・フリーリーのメンバーの中井っていうんだけど……実は翼から言伝てを頼まれてて……」

キラリ「え!?翼から!?」

謎の男性「そう……今翼は実家に軟禁されてるのは知ってるかな?それで、翼がどうにか家を抜け出すことに成功したから、キラリちゃんをちょっとだけ連れてきて欲しいって頼まれたのさ!」

キラリ「本当に!?本当に翼が!?」

謎の男性「そうだよ!だから、ちょっとだけ時間くれるかな?翼もあんまり時間無いから、もしこのチャンスを逃せば、今度はもう二度と会えなくなるかも知れないって……」

キラリ「わかった!お願いします!ちゃんと翼に会って確かめたいことがあるから!」

謎の男性「じゃあ、行こうか!付いてきて!」

そしてキラリはこの男性の後を付いて歩きだした。


キラリはこの男性の車に乗せられ、しばらく走った後、少し怪しげなホテルが建ち並ぶ場所で降ろされた。

キラリ「本当に翼に会えるの?」

謎の男性「あぁ、翼はそこのホテルに部屋を借りて待ってるんだ!さぁ、急ごう!」

流石のウブなキラリにも、このホテルがどういう場所かぐらいはわかっている。しかし、フラップ・フリーリーのメンバーということまで明かして来たこの男性を疑うには、まだ少し世間の恐ろしさには馴れていなかった。

そして、この謎のイケメン男性がキラリの肩を組んでホテルに入って行こうとする姿を、何者かが遠巻きに待ち伏せして居た事など、キラリが気づくはずも無かった。