キラリ「母ちゃん………どうじで………どうじで翼はあんな酷い仕打ちをずるの………うっ……うっ……」

薫「ねぇ、キラリ………翼が学校まで来たの?」

キラリ「うっ……うっ……ぢがう……うっ……うっ……前にキャンプで……出会っだ女がいで………その女が………うっ………うっ………翼の婚約者だっだっで………うっ……うっ……その女が……うっ……うっ……学校までぎで………電話を渡してぎだの……うっ……うっ……」

薫「じゃあ、電話で翼と話したのね?」

キラリ「うん……うっ……うっ……」

薫「それは本当に翼だったの?」

キラリ「うん……うっ……」

薫「いや、おかしいよ絶対!翼はそんな子じゃ無いよ!ちゃんと翼と会って確かめるまでは私は絶対そんなの信用しない!恐らく何か事情があるのよ………そんな電話をしなきゃならない事情が………もしかしたら、翼の身に何か危険が及んでいるとか………キラリ、もう泣かないで。ちゃんと確かめようよ」

キラリ「うっ……うっ……どうやって?」

薫「それはぁ………」



〝ピンポーン〟



そこへタイミング良くいつぞやの化粧品セールスレディが訪問してきた。



薫が玄関へ向かい、セールスレディと何やら話しているのがキラリの耳に聞こえてきた。

何か聞き覚えのある声だと思い、キラリも玄関に顔を出す。

丁度薫がそのセールスレディを断って追い返そうとしていた時、キラリが不意に女性に声をかけた。

キラリ「あっ!あの時の………」

女性「あら!キラリちゃん!また会えたわねぇ!」

薫「キラリ……顔見知り?」

キラリ「うん、この間話してた占い師の人!」

女性「占い師………では無いんだけどね………」

女性は少し困惑しながらも、とりあえず追い返されることは避けられそうだと安堵のため息をつく。

薫「なるほど!」

キラリと違って勘の良い薫は、この女性がそんな占い師では無いとすぐに悟った。

薫「もし良かったら上がって下さる?」

女性「宜しいですか?ありがとうございます!」

女性はキラリとその母親とも接触出来たことに喜ばずには居られなかった。

三人はリビングのソファを囲んで座り、薫はせかせかとお菓子やらジュースやらを手際良く用意し女性にもてなした。

小山内家は自営ということもあり、こうしていつどんなお客が来ても良いように常に備えている。

女性「ねぇ、キラリちゃん?随分と泣きはらしたような顔してるけど、何かあったの?」

キラリ「お姉さん………翼は………翼は必ず迎えに来てくれるんじゃ無かったの?」

女性「ねぇ、キラリちゃん………ちょっと何があったか聞かせてくれる?」

美麗は翼とキラリのアクセス方法が無いはずなのに、これ程キラリが悲しむような出来事を全く想像出来なかった。

キラリ「今日学校で………」

キラリは放課後の出来事を全て美麗に話して聞かせた。

そして美麗は全てを理解した。

女性「あ~、なるほどね………状況はよく理解出来たわ………なるほどそう来たか………」

キラリはさっそく占い師の力にすがる思いで言った。

キラリ「お姉さん………翼は本当に私のことをもてあそんでたんですか?」

薫は二人のやり取りを端から冷静に見つめていた。

女性「キラリちゃん、安心して!翼は決してキラリちゃんのことをもてあそんでる訳でも無いし、その歩実って女とも何も無いから!」

キラリは目を真ん丸くして驚きながら

キラリ「えぇ!?本当!?」

女性「えぇ!本当よ!そんなの、その歩実って娘のでっち上げよ!」

キラリ「でも……でも……確かに電話で翼は………」

女性「心配要らないわよ!そんなのいくらでも翼の声色真似する方法ぐらいあるから!キラリちゃんようく思い出してみて?声は翼だったかも知れないけど、どこかちょっとおかしく無かった?」

キラリ「そう……言われてみれば………」

キラリはあの時一方的に切り出された言葉の節々を思い返してみた。

確かに言われてみれば少し感情が無さそうな、若干棒読みに近い言い方だったような気がする。

キラリ「うーん………そう言われると………なんかいつもと違ったような気がする………」

女性「でしょう?きっとボロが出ないように淡々と話してすぐに電話を切ったはずよ!」

キラリ「そんな感じ………」

女性「キラリちゃん、ちょっと席を外してもらえるかしら?」

キラリ「え?どうやって?」

女性「え!?どうやって?って………」

キラリ「このソファをどうやって外すの?」

女性「……………席って………キラリちゃん?

あっ!

そういうことか!キラリちゃんにとっては席って椅子とか座る物を指す言葉だと思ってたのね………もうやだぁ~~~!可愛い!」

キラリは違うの?と言わんばかりのキョトンとした顔で美麗と薫を交互に見た。

薫「ごめんなさいねぇ、この子色んな意味でちょっと手間がかかる子だから………」

女性「ははは………はは………」

美麗は父親のことを考えると、更に頭を悩ますのであった。