翼の父は、どうすれば翼を上手く説得し、キラリのことを諦めるさせることが出来るのか考え悩んでいた。


やはり………翼があれだけ意地になってる以上、翼を説得するのはおそらく難しいだろうな………
ということは、相手のお嬢さんの方に翼から離れてもらうしかないか………


~それから数日後~


キラリは翼の居ない生活に張り合いが無くなってしまい、学校が終わるとすぐに家に閉じ籠る生活が続いていた。そしてこの日は一人で帰宅することになったのだが、学校の校門を出た所で一台の場違いな黒塗りの高級車が横付けされていた。

キラリはそれを横目に過ぎ去ろうとしたとき、その高級車の後ろの窓が下りて見知った女性が顔を出した。


歩実「あら、そこの頭の悪そうなお嬢さん………偶然ね!」

キラリは歩実の顔を見てぎょっとした。

キラリ「あ………あんたは!!!」

歩実「その節はどうも。あなた、公衆の面前で私に恥をかかせてくれたわね………今日はあなたに良い報せを持ってきてあげたわよ」

歩実は片方の口角を上げて、キラリを斜め上目遣いに見上げ、嫌味たっぷりな表情で

「あのねお嬢さん………あなたの大好きな翼が、今度私と結ばれることになったの。ゴメンなさいね………やっぱり翼も目が覚めたみたいよ………お父様に連れ戻されて、何不自由無く暮らせる環境に戻って………やっぱり自分の居るべき場所はここだったんだって………自分は本来一般庶民の豚小屋なんかで不自由な暮らしをするべきじゃ無かったんだって………そして、あなたみたいな口の悪いお嬢さんとは一緒に居るべきでは無かったって………」

歩実はキラリが怒りに満ちた表情で聞いているのを楽しむかのように続ける。

歩実「だってわかるでしょ?翼は財閥の子息なのよ?将来大企業の社長を約束された男なのよ?その相手があなただなんて、恥ずかしくて世間に顔向け出来なくなってしまうじゃない?あなたも可哀想に………翼の気まぐれに振り回されて、ひとときの淡い夢を見せられて………あぁ~………翼はなんて罪な男なのかしら………翼がね………あなたに謝っておいて欲しいって頼んで来たわよ。中途半端に期待持たせて、もてあそんでしまってゴメンねって………」

キラリは歩実の言葉をにわかには信じられない思いだった。

そんなはずないよ………翼がそんなこと言うはずないよ………だって翼は………あのとき………きっとこの女は嘘をついてる………この前の仕返しをしに来たに違いないんだ………翼は………翼はそんな男じゃない!

キラリ「お前!適当なことばっか言ってんじゃねぇよ!翼がそんなこと言うはずないだろ!」

キラリは人目もはばからず、怒りを露にして怒鳴った。
この異様な光景を、通り過ぎる全ての学生達が遠巻きに見ている。

歩実「アハハハハハハッ………なんて哀れなお嬢さんだこと………あまりにも信じがたい事実に現実逃避したくなる気持ちはわかるわ………でも………人生ってほんとわからないものなのよねぇ………翼のお父様から直々に私の所へ来て下さって、翼に相応しいのは私だけだって言われてしまったら、私も断る訳にはいかなかったの。だから、もう翼のことは諦めてちょうだいね」

キラリ「そんなの信じるもんか!翼の口から直接聞かない限り、そんなこと絶対に信じない!!!」

歩実「あら、そう?じゃあ直接翼の口から聞いてみる?いいわよ!でも………その現実を知ってショックのあまり自殺とか止めてよ?なんか私があなたを追い込んだみたいで後味悪くなってしまうから………」

歩実はそう言ってスマホを手に持ってキラリに差し出した。

キラリはそれをじっと見つめて立ち尽くす。

歩実「どうしたの?直接翼の口から聞きたいんでしょ?かけてご覧なさい?」

キラリは震える手で恐る恐る手を伸ばし、そしてそのスマホを受け取る。

歩実「そのまま発信をタップすれば翼に繋がるわ!さぁ、どうぞ?」

キラリは動くことが出来ない。

ほんと?翼………本当なの?本当に翼はこんな女と………
どうして?今までたくさん私にくれた言葉は………本当は………本当は私をもてあそんでただけなの?

歩実「どうしたの?あなたが翼から聞きたいって言ったんじゃない?それとも、現実を受け止める勇気が無いのかしら?」

キラリは震える指で発信をタップした……


そのスマホは、キラリと翼との現実という名の扉を開けて繋ぎ会わせようとしていた。

〝プップップップップップッ〟


呼び出し前の接続音がなり、そして呼び出し音に切り替わった。


トゥルルルルルル……トゥルルルルルル…

「はい?」

キラリは翼の声を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になり、何を話したらいいのかわからなくなっていた。

そして、間髪入れずに翼が続ける。

「キラリ、悪い……俺は歩実と一緒になることにしたんだ。もうお前とは会う気はないから連絡してこないで欲しい………今までお前のことをもてあそんで悪かった……それじゃ……」

一方的にそう言われて切られてしまった。

キラリは放心状態で立ち尽くしている。

キラリにとってこの現実を受け止めるには、あまりにも唐突過ぎて、かつ信じがたい言葉の連続であった。

キラリはここに自分が存在していることすらわからない程に頭の中の整理が追い付かない。


キラリ!?ねぇ、キラリどうしたの!?

どこか遠くで誰かが叫んでる………