~一方翼は~


翼「あ~もううんざりだ!もう息が詰まる!その話は散々聞いた!」

父「翼………お前がどんなに粘ろうが、もうお前に選択肢は無いんだよ。だからいい加減に観念して経営のことも勉強したらどうだ?」

翼「もうわかった!」

父「本当か?」

翼「あぁ………これだけ話し合ってお互い譲歩する余地が無いんなら、結局俺が折れるしか道は無いんだろ?」

父「やっとわかってくれたか!」

翼「その代わり二つ条件がある!」

父「何だ?何なりと言ってみろ!お前がおとなしく我が社を継ぐ意志があるなら、俺だってそれ相応に見合った対応をしよう!」

翼「一つ目は、先ず今度大事なライヴやるから必ず行きたい!これは、どうしても行かなきゃならないんだ!そして、もう一つ………俺はどうしても迎えに行かなきゃならないやつが居るんだ。その娘を家に受け入れてくれるなら、俺も黙って親父の為に尽力するよ!」

父「ほう!それで?どんなお嬢さんなんだ?もちろん我が一族として申し分無いお嬢さんなんだろ?」

翼「いや………ハッキリ言って親父が満足するような要素は何一つ持ち合わせちゃいないな………だけど、俺にはどうしても必要な存在なんだよ………あの娘じゃなきゃ………あの娘が居ないなら、俺はもう何もかも諦めて生きていくしかない………だから………もし親父が俺のこの条件を聞いてくれないなら………」

父「ちょっと待ってくれ。時間が欲しい………お前がそれほどまでに言うのなら私にも心の準備がいる。」

翼「わかった」

そして翼はまたこの豪邸に軟禁されることになった。


〝コンコン〟

翼の姉の美麗が翼の部屋のドアをノックした。

翼「はい………」

美麗「翼どうだった?」

翼「あぁ……まだ何とも言えないかな………でも、多分俺の心理作戦は親父に効いてるとは思うんだけどね………すぐには納得せずに、お互いいい加減落としどころを探り合うこのタイミングで切り札を出す。そしてもし親父が俺の条件を呑まなければ、今度は俺がどう動くはわからない………そう思わせるように持ってったからね。

美麗「果たして上手く行くかしらね」

翼「正直わからない………また新たに何か作戦を立てないと、そう簡単には首を縦には振ってくれないだろうね………」

美麗「そのお嬢さんに何か問題が?」

翼「問題………そんな次元じゃあないね………」

美麗「お父さんきっとその娘のことをそうとう調べると思うわよ?」

翼「あぁ、そうだろうね………だからこそ、もったいつける必要があるのさ」

美麗「ねぇ、どんな娘なの?」

翼「………俺が初めて本当に愛しいって思えたやつだよ………あの娘なら………俺が人生賭けて幸せにしてやりたいって思えるほどの………」

美麗「ねぇ、今度いちどその娘に会ってみたいわ!ちゃんと気付かれないようにするから、ちょっとその娘の家の住所教えてよ!」

翼「よ……余計なことしないでよ?」

美麗「わかってるって!少なくともあんたの邪魔になるようなことはしないから!」


~それから数日後~


キラリはいつもの様に学校から真っ直ぐ帰宅した。
そして机に向かって勉強を始めようとしたその時………

リビングのインターホンが鳴ったことに気付き、キラリは急いで階段を駆け降りた。

室内のインターホンの小さなカメラで相手を確認する。
そこには、眼鏡を掛けてマスクをした髪の長い女性が映っている。

キラリ「どちら様ですか?」

女性「あ、初めまして化粧品のセールスで回っています。少しお話しさせて頂いても宜しいでしょうか?」

キラリはとりあえず玄関に向かい、そしてドアを開けた。

〝ガチャ〟

キラリ「すみません、今母ちゃん居ないからちょっと………」

女性「あら、そうでしたか。お嬢さんでももし良ければお話しさせて頂けませんか?」

キラリ「うーん………私はまだ化粧品とかあんまり………」

女性「そうですか?でも、こんな可愛らしいお嬢さんがお化粧しないなんてもったいないですよ?元々これほどの美貌ですから、お化粧しなくても十分だとは思いますが、でも、きっとお化粧したらグンと大人っぽくなってまた印象もガラリと変わりますよ!」

キラリ「いやぁ……でも……私が話し聞いても買えないから………」

女性「それでも全然構いません!後でお母様と相談なさって下されば良いんです!ちょっと玄関の中でお話しさせて頂いても宜しい?」

そう言って女性はグイグイと玄関の中へ入り、化粧品のサンプルを床に拡げて居座ってしまった。

キラリはそれを断りきれずにオドオドとしている。

女性はキラリをまじまじと見て

女性「ほんと可愛らしいお嬢さん………羨ましいわぁ~!」

キラリはその言葉にすっかり気分を良くしてしまい、ついこの女性に心を許してしまった。

女性「こんな可愛らしいお嬢さんなら、きっと素敵な彼氏さんがいらっしゃるんでしょうね?お嬢さん高校生?」

キラリ「え……えぇ……多分………」

女性「お名前は?」

キラリ「キ………キラリ……」

女性「キキラリさん?まぁ、変わったお名前ねぇ!

キラリ「いや………キラリ………です………」

女性「あら、失礼しました。彼氏さんはいらっしゃる?」

キラリ「彼氏………」

キラリは翼のことを思うと胸が切なくなっていた。