キラリはいつものように学校から帰宅して、真っ先に薫の姿を探した。

キラリ「母ちゃんただいま~!」

家の中は静まり返っている。
そしてすぐに二階に上がり、翼の姿を探しに行ったのだが、やはり翼の姿も見当たらない。

翼……どこかに出掛けただけだよね………まさか……突然居なくなったりしないよね?

キラリは翼が不安になることを口にしてからずっと翼が突然消えてしまうことを恐れていた。
その日の夜になっても、翼が家に戻ってくることは無かった。


キラリ「ねえ………母ちゃん………」

薫「うん、どうした?」

キラリ「翼が………」

薫「うん………帰って来ないね」

キラリ「翼に何かあったのかな………母ちゃん何も聞いてない?」

薫「さぁ………何も………」

キラリ「そっか………」

キラリは肩を落として自分の部屋へ戻った。
キラリは机に向かって頬杖(ほおづえ)を付いてボォーッと考え込んでいる。


翼………あのとき………


~二週間前の回想~

キラリ「翼………良かった………もう会えないかと思ってた………」

翼「何をそんな心配してんだよ………」

キラリ「だって………」

翼「キラリ……………もし………俺が突然居なくなったら寂しいか?」

キラリ「え……………別に……………寂しくは無いけど……………でも……今まで散々からかわれた分やり返してやらなきゃ………」

翼「そっか………寂しくはないか………」

いつになく翼の表情が哀愁漂う感じがしたのでキラリの不安が加速する。

キラリ「翼?本当に居なくなっちゃうの?」

翼は優しくも寂しげな表情でキラリにニコッと笑って見せた。

翼「キラリ………」

翼はキラリをいきなり抱き締めた。

そして、キラリの頭を抱えてこう言った。


翼「キラリ………俺はお前にとってどんな存在かな………」

キラリ「え?」

翼「俺は………お前にとって王子様になれるかな?」

キラリ「翼?」

翼はキラリの顔を自分の胸に押しあて、ギュッと強く抱き寄せる。

翼……苦しいよ……どうしたの?今日の翼はなんか変だよ?

キラリは至福の時と不安な気持ちを同時に味わっていた。

翼「キラリ?」

キラリは翼の胸に顔をうずめたまま

キラリ「はい……」

と返事をした。

翼「お前は………俺にとって特別な存在なんだ………

何て言うか………

家庭教師と教え子とかじゃ無くて………

それ以上っていうか………」

キラリの胸がキューーーーンと締め付けられるような感覚になる。

キラリ「翼………それって………」

翼「キラリ………」

キラリ「うん………」

翼「今は………それだけで許してくれ………」

そして翼はキラリの両方のほっぺたに手を当ててキラリの潤んだ瞳を見つめた。

そして次の瞬間


え?翼?


キラリは今起きたことが、にわかには信じられないでいた。

そして翼は何も言わずにキラリの部屋を出ていった。







翼………あの後………結局また何事も無かったかのように振る舞っていたけど………あれは………

私………翼にからかわれてた訳じゃないよね?

翼………翼は私にとって本物の王子様だよ………

だから………早く戻ってきてよ………

いつもみたいにキラリただいまって………

いつもみたいに隣に座って勉強教えてよ………

いつもみたいに………

また………







~凛花と悠陽~

悠陽「凛花ちゃん、ちょっと話があるんだけど今から会えるかな?」

凛花「えぇ、全然大丈夫!」

悠陽「実はさ、もう凛花ちゃんの家のすぐ側まで来てるんだけど」

凛花「え?そうなの?わかった!すぐ行く」

凛花は急いで軽装に着替えて玄関を開けて外に出た。
悠陽は凛花の家の前に車を横付けして、窓を開けて軽く手を振った。
凛花は悠陽の助手席に乗り込み

凛花「悠陽さん、お待たせ!」

悠陽「いやいや、突然悪いね………実はさぁ………翼と急に連絡取れなくなっちゃって、凛花ちゃんはキラリちゃんに何か聞いて無いかなって………」

凛花「え?そうなの?キラリは何も言ってきてないけど……ちょっと聞いてみるね」

そう言って凛花はキラリに電話をかけてみた。



キラリ「はい………」

凛花「キラリ?翼さんそこに居る?」

キラリ「……………」

凛花「キラリ?」

キラリは電話越しに声を出さずに泣いている。

凛花「キラリどうした?翼さんに何かあったの?」

キラリ「うっ…うっ…」

凛花「キラリ?」

キラリは涙声で

キラリ「凛花………翼が………」

凛花「翼さんがどうしたの?」

キラリ「翼が………帰ってこない………」

凛花「悠陽さん………キラリの様子がおかしいの………ちょっとキラリに会いに行ってもいい?」

悠陽「うん、行こう」

凛花「キラリ?ちょっと会って話そうよ……」

キラリ「凛花………今は………一人にして………ゴメン………」

キラリは電話を切ってベッドにうつ伏せになり大声で泣き出してしまった。

その様子を、薫はキラリの部屋のドアの隙間から哀しげな表情で見つめていた。
薫はキラリが悲しみにうちひしがれているのを見て、思わず自分も涙をこぼしてしまった。

キラリ………