キラリはベッドの上でうつ伏せになって目を瞑っている。


翼………

あの優しい笑顔………

真剣な眼差し………

あのときの緊張した顔………

翼………

何を言おうとしたの?

どうしてちゃんと私の心抱き締めてくれないの?

もう………切なくて………苦しくて………

いつも側に居るのに………

凄く近いようで遠い………

翼の心の中に………

早く私を受け容れて………


そんなことを思っていたとき、キラリの部屋のドアを誰かがノックした。

〝コンコン〟

キラリ「はい…」

〝ガチャ〟

薫「キラリ、ホットミルク入れてきた」

薫はそれを机の上に置いた。

キラリ「母ちゃんありがとう………」

薫「どうした?また翼とケンカでもした?」

キラリ「いや………そうじゃないんだけど………」

薫「そうじゃないんだけど……何?」

キラリ「何か上手く行かなくて……」

薫「どういう風に?」

キラリ「翼がさぁ……何か言いかけてるの……つき……って……」

薫「そりゃそれはキラリに付き合ってくれってことでしょ?」

キラリ「でも煮えきらなくて……翼がよくわからない……」

薫「そりゃ男にも色々いるわよ。はっきりズバッと言える人も居れば、なかなか言えない人だって。それに、マジだからこそ言い出しにくいってのもあるかもよ?」

キラリ「父ちゃんは母ちゃんにどうだった?」

薫「パパはもうガツガツ来るタイプだったね。最初はハッキリ言って眼中に無かったけど、不屈の闘志でとにかく私にアタックしてきた。その真っ直ぐな心に徐々に惹かれていった感じかなぁ……」

キラリ「へぇ、うらやましいなぁ……」

薫「翼がハッキリしないんなら、キラリが仕向けてあげるのが良いんじゃない?」

キラリ「どうやって?」

薫「ツンデレ作戦!」

キラリ「ツンデレ?」

薫「普段はよそよそしくして、無愛想に見せといて、何かのタイミングで急に可愛く甘えてみたりするの」

キラリ「あっ……それって……翼がよく使うやつだ!」

薫「でしょうね………翼はキラリの反応を見て楽しんでるのよ」

キラリ「結局私が騙されてるだけじゃん!」

薫「だから、そこを逆手に取るのよ!」

キラリ「どうやって?」

薫「そんなの知らないよ!」

キラリ「えぇ?教えてよ!」

薫「それくらい自分で考えろよ!」

キラリ「母ちゃんの意地悪………」

そのとき薫がいきなりキラリの肩に手を回して耳元でささやいた。

薫「でも……キラリが可愛いから教えてあげる」

キラリ「もう、なーに!どっちなの~?」

薫「つまり、こうやってツンツンしたと思ったら、急に甘え声になって可愛さアピールすんのよ!」

キラリ「あっ!そういうことか!わかった。やってみる!」



~翌日~


翼は部屋で寝ている。
キラリはそっと翼の部屋に忍び込み翼の寝顔を覗き込んでいる。
そして翼の耳元で甘くささやいた。

キラリ「つ・ば・さ……お・き・ろ……」

翼は少しだけまぶたが動いて反応するが、また静かな寝息を立ている。

キラリ「つ・ば・さ……だ・い・す………」

キャア………やっぱり言えない………恥ずかしくて言えないよ………

キラリは一人で赤面してモジモジしている。

そのとき翼が

んん~……

と、寝言のように唸った。

え!?起きちゃった!?

しかし、また静かに寝息を立てている。

キラリは再び翼の耳元で甘くささやき始めた。

キラリ「つ・ば・さ……」

そのとき翼がゆっくりとキラリを抱き締めてしまった。

え!?ちょっ!?ちょっと待って!?翼……起きてるの?

キラリの顔は翼の顔の息がかかる距離にある。
そして翼がむにゃむにゃと何か寝言を言っている。
キラリは翼の腕の中で身動きが取れない。
キラリは何とか翼の腕の中から抜け出そうとするが、そこでまた翼が寝言を言い出した。

翼「キラリ………」

その瞬間、キラリの心臓がドキンと鳴った。

そして更に翼がキラリの頭を抱え、自分の顔の方へ抱き寄せる。

ヤッ!ヤバッ!翼!それはちょっとマズイって!

キラリは緊張して翼を突っ張って離れようとする。
そのとき翼が急に力を抜いて、寝返りを打って反対を向いた。

キラリはその隙にあわてて翼から離れた。
まだキラリの心臓は苦しいほど高鳴っている。

そして再びキラリが翼の顔を覗き込むと

翼「キラリ………おはよう………」

えぇぇぇぇぇぇぇ~~~!!!!

つ……翼………もしかして………お………起きてたの?

翼「キラリ?」

そう言って翼がゆっくりとキラリの方へ向き直った。

キラリ「おっ………おはよう………お……起きてたんだ?」

翼「いや………寝てた………」

ね……寝てたって………どこまで寝てたんだよ………

キラリ「ほんとに寝てた?」

翼「うーん………キラリが入って来るまでは………」

えぇぇぇぇぇぇぇ~~~!!!!
じゃ……じゃあ………起きてたんじゃん………
あれは………わざとか………

キラリ「翼?」

翼は寝ぼけた声で

翼「んん?」

と答えた。

キラリ「私が入って来るまではって………じゃあ全部覚えてるの?」

翼「えぇ?何が?」

キラリ「な……何がって……その……………」

翼「覚えてない………何にも………」

う………嘘つけ!!!あ……あれを覚えてないわけがないだろ!

翼「キラリ………」

キラリ「はい………」

翼「寝込みを襲うのは良くないぞ………」

お……覚えてんじゃねぇか!