帰り道、キラリは翼に手を引かれるままに歩いている。

翼「キラリ………なんか邪魔が入っちゃって悪かったな……」

キラリ「べ……別に翼が悪い訳じゃないじゃん……」

キラリはうつ向きながら言った。

翼「キラリ………」

キラリ「はい………」

翼「さっきはうっとうしい女の子達をまくために彼女って言ったけど………」

キラリ「わかってるよ………」

翼「……………そか」

翼は立ち止まってキラリの手をグッと引いて自分の方へ向かせた。

キラリは目を見開いて翼の目をじっと見つめる。
翼もしばらく黙ってキラリの目を見つめる。

翼「キラリ………」

キラリ「な………何さ………」

翼「いや……………」

翼は明らかに何か言いたそうにしているが、結局言い出せずにいるといった表情で

翼「あっ……帰りにお前の大好きなジュース買ってやるよ………」

キラリ「え………うん………ありがとう………」

また翼はキラリの手を引いて歩き出した。
それから二人は無言で歩き続ける。

翼……………言ってよ………何か言いたいんでしょ?

ちゃんと言ってよ………

キラリ…俺と付き合えって………

そのとき翼がまた立ち止まり振り返った。
キラリもそれに合わせて立ち止まる。

翼「キラリ………」

キラリ「はい………」

翼「つ………」

つ?つ………なに?

翼「つき………」

キラリはドキドキしながら翼の言葉を待っている。

翼「付き合って欲しい………」

その瞬間、キラリの心臓がはち切れんばかりに高鳴って胸が苦しくなった。

しかし、次の瞬間翼は更に続けた。

翼「ところがあるんだけど………いいかな………」

翼は凄く緊張した面持ちでキラリに目を合わさずにいる。

キラリ「は………はぁ!?」

変なところで言葉止めんなよ………
お陰でこっちは緊張し過ぎて鼻血出るところだったじゃん!

キラリ「どこにさ………」

翼「いや………やっぱりいいや………」

キラリ「何なんだよ!さっきから………」

また翼はキラリの手を引いて歩き出した。
キラリはモヤモヤしながら黙ってついていく。

今日の翼はなんか変だぞ………いったい何がしたいんだよ………

そしてまた翼が立ち止まる。
それに合わせてまたキラリも立ち止まる。

翼は振り返らずに

翼「キラリ……」

キラリ「はい………」

キラリはいい加減ハッキリしてと言わんばかりの表情でぶっきらぼうな返事をした。

翼「あのさ………今日のお前………凄く………可愛いぞ………」

キラリ「あ………ありがとう………」

キラリは赤面している。

翼「あのさ……キラリ……………」

キラリ「うん……………」

翼は振り返ってキラリの両肩を掴み、真剣な顔付きに変わった。

キラリはその真剣な目を見て身構える。

ドキドキ……ドキドキ……ドキドキ…ドキドキ…

キラリは緊張して翼の言葉を待った。

翼「あの………」

翼もよほど緊張しているのか、唇が震えている。

翼「俺と………つき………」

翼がそう言おうとした瞬間、翼のスマホから陽気なメロディーが流れた。

翼「チッ………誰だよ………」

翼は話の腰を折られて怪訝(けげん)な表情を浮かべてポケットからスマホを取り出す。

キラリも肩透かしを喰らって思わず膝がカクッと落ちた。

翼「はい、もしもし?」

悠陽「あっ…翼?今から今度のライヴの打ち合わせするからちょっと出て来てくれよ」

翼「えぇ?今から?」

悠陽「うん!あっ………もしかして………今キラリちゃんと良いところだったか?」

翼「ふざけんなよ………俺とキラリは何でもねぇよ………」

翼はそう言って一瞬キラリを横目でチラッと見た。

キラリの顔色はあきらかに変わって、プイッとそっぽを向いて見せた。

翼「しょうがねぇな……とりあえず行くわ……」

翼は電話を切ってキラリの方を向いたが、キラリは完全にヘソを曲げてしまった。

翼「キラリ………悪い………ちょっと………」

キラリ「行けば良いじゃん!別に私にいちいち断らなくたっていいだろ!私は翼とは何でもないんだから!」

翼「キラリ………」

キラリ「もういいから早く行けよ!!!」

翼が動揺しているように見えたが、キラリの凄いけんまくに圧倒されてゆっくりと後ずさる。

翼「ごめん………じゃあ………ちょっと行ってくる………」

キラリは翼と目を合わそうとせず、翼は何度かキラリの方を振り返りながら行ってしまった。

ハァ~………

またやってしまった………こんなんじゃ私かわいく無いよね………

翼にとって可愛い女で居たいのに………

どうしていつもこう上手く行かないんだろ………

キラリは肩を落としてトボトボと一人で歩いて家に帰った。

キラリは家の玄関を開けて自分の部屋へ上がろうとした時、丁度父の清とバッタリ顔を合わせた。

清「おぉ、キラリ今帰ったのか?」

キラリは清の顔を見てため息を付きながら二階へ上がっていった。

清は薫の元へ行って

清「ママ……キラリが俺の顔を見てため息付くんだよ……」

薫「また翼と何かあったのかな……」

清「何かって………え!?まさか………」

薫「パパ………キラリは今青春してるから、優しく温かい目で見てあげて」

清「まさかあの二人は………付き合ってるのか?」