キラリが寝ぼけながら波打ち際まで引っ張られてボーッと水平線を眺めていると、既に陽が頭を出し始めていた。

翼「キラリ、座れよ」

翼がキラリを横に座らせ、二人で静かに朝陽が登って行く瞬間を眺めている。

翼「キラリ……どうだ?水平線の太陽ってのは凄く綺麗だろ?」

キラリはまだ少しうとうとしながらコクッとうなずいた。

翼「まったく、こんなロマンチックなシチュエーションなのに寝ぼけてんのか?」

そう言って翼がいきなりキラリの肩を抱き寄せた。
その瞬間、キラリの頭は一気に覚めた。

キラリ「えっ?ちょっ………」

翼「目が覚めたか?」

キラリ「え………う……うん………」

そして翼はしばらくの間、何も言わず水平線から太陽が登りきるのをじっと見つめている。

翼「眩しいな……」

キラリ「うん……」

翼「でも、凄く幻想的だ……」

キラリ「うん……」

翼「なぁ……キラリ……こうしてると、なんだか俺たち本物のカップルみたいだな……」

キラリ「え?う……うん……………」

翼「まだ寝ぼけてるのか?いつもなら、こういうことしたら怒り出すくせに………」

キラリ「え?だ……だって……」

キラリは戸惑いながらも、気になっていることを聞いてみた。

キラリ「ねえ………翼………?」

翼「ん?」

キラリ「あのさぁ………昨日はよく眠れた?」

翼「あぁ、爆睡しちまったな。お陰で早くに起きちまったよ」

キラリ「そっか………」

キラリがまだ何か言いたげにしているのを見て翼が聞き返した。

翼「キラリ?どうした?」

キラリ「え……ううん………あの………昨日はどんな夢見てた?」

翼「え………夢?……………いや、多分夢なんか見てないな………」

キラリ「そう……なんだ………」

翼「どうして?」

キラリ「ううん……別に……」

翼「もしかして………」

キラリ「え?」

翼「俺、何か寝言言ってたのか?」

キラリ「……………」

翼「何だよ?教えてくれよ!」

キラリ「秘密………」

翼「なんだよ~、気になるじゃん!」

キラリ「翼だって私に秘密って言うじゃん………」

翼「俺………もしかして何か恥ずかしいこと言ってたか?」

キラリ「フフフッ………秘密………」

そう言ってキラリはニヤニヤしている。

翼「そういうことすると~………こうしてやるぞ!」

そう言って翼がキラリの身体をくすぐりだした。
キラリはのけ反りながら身もだえた。

キラリ「アハハハハハハ………ちょっと………翼~!止めてよ………ちょっと~………怒るよ~……アハハハハハハ………」

翼がくすぐる手を止めて

翼「じゃあ言えよ!」

キラリ「ヒ・ミ・ツ」

翼「キ~ラ~リ~!」

翼がまたキラリをくすぐろうとした瞬間、キラリは立ち上がって嬉しそうに逃げ出した。

翼はキラリを追いかける。キラリが砂浜に足を取られてバランスを崩し倒れそうになるところを、翼が間一髪でキラリの身体を抱いて止めた。

翼「大丈夫か?」

キラリ「あ………ありがとう………」

キラリはすぐに翼から離れた。

翼「キラリ………」

キラリ「はい………」

翼は真っ直ぐキラリの目を見つめる。
キラリも翼の視線から目を離すことが出来ない。

翼………翼の目が………凄く優しい……それは………もしかして私だけに向ける眼差しなの?

翼「キラリ………」

キラリ「………はい」

翼「あぁ………あれだな………腹減ったな………」

キラリ「………そ、そうだね………」

翼「悠陽達起こそっか………」

キラリ「………うん」

翼「行くぞ!」

そう言って翼が振り返りキラリに背中を向けるが、翼の手だけはキラリに差し出している。
キラリは戸惑いながらも翼の指先を自分の指先でそっと掴んだ。

翼「キラリ………」

キラリ「うん………」

翼「こういうのも………悪くないな………」

キラリ「……………」

凄く幸せだよ………翼………


二人はテントに戻り、凛花と悠陽を起こした。

そして顔を洗ってから悠陽の指揮の元、朝食の準備が進められた。


翼「やっぱり悠陽の飯は美味いなぁ!」

凛花「ほんと悠陽さんのご飯美味しい!」

翼「凛花ちゃん、こいつと結婚したら毎日美味い飯が食えるぞ!」

悠陽「何言ってんだよ!付き合ってもいない内から結婚の話なんかしたら鬼が笑うぞ!」

凛花はまんざらでもないといった表情で笑っている。

キラリ「そういえば、昨日凛花と悠陽さん二人で何処に行ってたの?」

悠陽「ちょっと浜辺を散歩しながら星空眺めててんだよ」

凛花「凄く綺麗だったよ!」

キラリ「悠陽さんはロマンチストなんだね!」

凛花「キラリ、悠陽さんは凄く優しくて紳士だよ!」

悠陽「そんなことないさ……俺だっていざとなれば羊の皮を被ったヤギに変身するんだぜ!」

翼「狼にはなりきれないのかよ!」

悠陽「意外と気が弱かったりして!」

四人は愉しそうに笑っている。

そのとき、数人の若い女子達がキラリ達の元へと近寄ってきた。

歩実(あゆみ)「あら、似てる人が居ると思ったら……翼じゃない!」

翼はその女性を見た瞬間、顔が凍りついた。

翼「歩実………」

キラリは突如現れた歩実と翼との間に、何かしら深い関係があるとすぐに察知していた。