翼「彼女?そんなの居たことなんて一度もねぇよ…どうして?」

キラリ「さっき…喫茶店で一緒に居た人は……誰?」

翼「見てたのか?」

キラリ「じゃあ……やっぱり……」

翼「恥ずかしいところ見られちまったな……実はあの女は…」


~それから十分後~

薫は、2階から二人の笑い声が聞こえて来て微笑んだ。

あんなに殺伐とした雰囲気だったのに、今度は愉しそうに笑っちゃって…案外あの二人は気が合うのかも…



~十分前、キラリの部屋では~

翼「実はあの女は……俺の姉貴だ。」

キラリ「え……お姉さん?」

翼「あぁ、いよいよ金も底を尽きて途方に暮れてた時に電話来てさ。それで用意してもらった現金をあの喫茶店で受け取ってたんだ」

翼はそう言って手に現金を見せた。

キラリ「な…なんだよ…そういうことだったのかよ…」

キラリの心は少し軽くなったが、もう一つ翼に対してわだかまりがあった。キラリはそれを言おうか迷っている。

翼「キラリ?どうした?まだ何か言いたいことがあるんだろ?」

キラリ「翼…前にここを出ていく時……翼はファンの女とキスしてた……翼は……いつも……」

翼「ちょっ…ちょっと待てよ!キス!?キスなんかしてねぇぞ!」

キラリ「私…見ちゃったんだ…レディースのメンバーとライヴ見に行こって言って……それで会場に入れなかったからさ…

それで外を歩いてたら…翼が取り巻きに囲まれてて…

それで女が翼に抱きついてキスしたの見ちゃったんだ……」

翼「なるほどな……お前はそれであんなに怒ってたんだな?あの時の真実を教えてやるよ…
確かに酔った女が俺に抱きつこうとして迫って来たのは事実だ…だけど俺はそんな軽い女に言い寄られるのが大ッ嫌いなんだよ!だからその女を振り払ったぜ!」

キラリ「それ…本当?」

翼「あぁ、俺はお前に嘘は言わねぇ!お前は純粋な女だから、俺はお前のことは嫌いじゃねぇ。だから、俺もありのままの俺で居られる」

キラリ「翼……

あっ…私は!!!!!別に翼に彼女が居ようが、他の女にキスされようが別にどうでも良いんだよ!
ただ、もし彼女が居たならこんな別の女の家に居候してたら……私なら…二度と家には入れたく無いなって思っただけで…」

翼は立ち上がりキラリの前に立った。

翼「キラリ…


ただいま…」

翼はそう言ってキラリに手を差し出した。
キラリはその手を握り、うつ向いて目を合わさずに

キラリ「お帰り…」

と小さく一言。

翼「全く素直じゃ無いんだから!俺が帰って来て嬉しいなら嬉しいって言えよ!」

翼がおどけてそう言ったので、キラリは照れ笑いしながら

キラリ「だから全然嬉しくなんかねぇんだよ!」

そうして翼はキラリをからかい、キラリは愉しそうにムキになって怒った振りをした。

二人の中のわだかまりは全て解けた。

キラリと翼は愉しそうに薫の元へと下りてきた。

キラリ「母ちゃん、翼がどうしてもこの家が良いって言うからまた居候させてあげて!」

翼「よく言うぜ!お前こそ俺が居なくなったらピーピー泣いてんだろ?」

キラリ「はぁ!?んなわけねぇだろ!翼が居なかったら好きな時に風呂入れるし、好きな時にテレビ観れるし、良いことしかねぇよ!」

薫「キラリ!!」

キラリ「はい……」

薫「何なんだその口の聞き方は!」

キラリ「は…はい…すみません…」

薫に怒られてキラリは小さくなっていた。
翼はそれを見て肩で笑っていた。

この小山内家に久々の笑顔が戻ってきたのだった。

~その日の夜~

キラリ「ねぇねぇ翼、見てみて!」

キラリは翼が居ない間に凛花の協力のもと、一生懸命小学校の課題をこなしたのを全部広げて見せた。

翼「……………」

キラリ「翼?」

キラリは翼の顔を覗き込む。

翼「キラリ……お前は……やっぱり最高だよ……」

翼は全てを悟っていた。
キラリは必ず自分が戻って来ると信じ、その時自分にたくさん誉めてもらいたかったのだと…

翼「キラリ!!!お前はまったく最高なんだよ!」

キラリはその言葉に感極まって涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。

キラリ「翼……」

翼「お前…よくここまで頑張れたな…これで小学校の課題は全てクリアじゃないか!」

キラリは感動のあまり翼の目を見ることが出来ない。

翼「キラリ、お前のお願いを3つ聞いてやれば良いんだな?」

キラリは嬉し過ぎて唇が震えている。

翼「キラリ?どうした?」

キラリ「うん…」

キラリは涙声になり一筋の涙を指で拭った。

キラリ「うん…一つ目は…今度レディースの集会に…一緒に来て欲しい…」

翼「わかった。次は必ず行くよ!」

キラリ「本当?」

翼「あぁ、例え予定があってもお前の約束を優先する!」

キラリ「ありがとう!!!」

翼「それで?二つ目は?」

キラリ「うーん……二つ目は~…」

キラリは少し照れて言いにくそうにしているのを見て、翼はそっとキラリの頬に手を当てて

翼「キラリは俺の可愛い教え子だよ」

そう優しく囁いた。

キラリは驚き緊張した面持ちで、顔を真っ赤に染めてはにかんでいる。

キラリ「つ…翼…あの…どうして?」

翼は優しくキラリを見つめている。