メンバー達はキラリが〝フラップ.フリーリー〟を知らないというので、ライヴハウスを覗きに行こうと言い出した。しかし、この〝フラップ.フリーリー〟のあまりの人気に、会場内は満席で入場制限がかけられて中には入ることが出来なかった。

メンバー達は肩を落として歩き出した。そしてこの路地の裏手側に差し掛かった時、キャーキャーと若い女の子達が誰かを取り巻いて騒いでいるのが見えた。
その人だかりはかなりの数が居て、遠目にはその中心となる人物を特定することは出来ない。

レディースメンバーA「誰か芸能人でも居るんすかね?」

レディースメンバーC「何かそんな勢いで囲んでるよね?」

レディースメンバーE「ねぇ…ちょっと…翼って聞こえない?」

メンバー達が

レディースメンバーB「いや…言ってるよ!フラップ.フリーリーの翼のことじゃない!?」

レディースメンバーE「えぇ!?マジ!?ちょっ…ちょっと見てこようよ!」

メンバー達があわてて人だかりの中に紛れて行った。
キラリはその名前を聞いて

翼…?翼って…あの…翼のこと?バンド?ヴォーカル?だから…だから土曜日は…まさかね…でも…

キラリもその人だかりの中に、本当に翼が居るのかと確めに近づいた。
その時、突然キャアー~という悲鳴に近いざわめきが沸き起こった。

そしてキラリの視界には、翼の周りに居た翼ファンの女の子の一人が、翼に抱きつきキスを迫ろうとしていた。
それを見たキラリは、ショックのあまりこの場を逃げたしてしまう。

翼「止めろよ!」

翼はその女の子の過激なモーションを突き放して事なきを得て、ファンの女の子達も皆胸を撫で下ろしていた。

しかし、キラリの中では完全に翼の唇は他の女に奪われてしまったという固定観念に囚われてしまっていた。

キラリは無我夢中で走り、気付けば駅近くの人通りの少ない路地に出ていた。キラリはそこにあったフェンスにしがみつき、まるで親とはぐれて迷子になった小さい子供のように大声を出して号泣した。
そして、ひとしきり泣いたあと、フェンスにもたれズルズルと力なく地面に座り込んだ。

キラリは泣き疲れ、そのまま眠りに堕ちてしまった。

その周りには、数人の男達がキラリの様子を見ていた。


~小山内家~

翼はあのあと真っ直ぐキラリの家に帰宅した。

リビングにまだ明かりが付いていたので翼は声をかけて入っていく。

翼「キラリの母さんただいま~」

薫「あらお帰り~!今日は早かったんだね!」

翼「うーん、ライヴの順番が前倒しになったから早めに終わったんだよね」

薫「そっか、じゃゆっくり休んで」

翼「キラリはもう寝たんすか?」

薫「いや、レディースのメンバーと出かけたから、まだ帰ってないよ」

翼「そうすか…んじゃちょっと疲れたんで寝ますわ。おやすみ~」

「おやすみ」

薫はふと時計を見る。

薫「12時過ぎか…私も眠くなってきちゃったな…ちょっとキラリに電話してみるか…」

薫はキラリに電話をかけてみるがなかなか出ない。


~キラリ~


キラリのスマホに着信音が鳴る。
キラリはまだ完全には眠りから覚めず、誰かに揺さぶり起こされて目が覚めた。

キラリ「あっ…私のスマホに…着信…」

キラリは寝ぼけながらスマホを握る。

キラリ「あっ…もしも…」

薫「あ…キラリ?あんた寝ぼけてる?」

キラリ「あの…かあち…クーッ…クーッ…」

薫「ちょっと!キラリ!?あんた今どこに居るの?」

キラリ「えっ…あっ…はい…わかりまし…クーッ…クーッ…」

薫は完全に寝ぼけてるキラリを起こすため大声で怒鳴った。

薫「オイ!起きろやぁ~!!!てめぇ人が心配してんのに何寝ぼけてんだコラァ~!!!!!」

この声にキラリの潜在意識の中の恐怖がキラリを完全に目覚めさせた。

キラリ「はい!起きました!すいません!!!」

キラリの寝ぼけた時の声は、少し舌ったらずで、小さい子供のように可愛くなる。

薫「キラリ?あんた今どこで何してるの?」

キラリ「えっと…ちょっとわかりましぇん…すいません…」

薫「わかりませんって…レディースのメンバーと一緒なの?」

キラリは辺りを見回した。そしてすぐ横に見知らぬ若い男が隣に座っているのを見て驚き、思わず声を上げてしまった。

キラリ「うわぁ~~~!」

薫「キラリ!?どうしたの!?」

キラリ「いや…ちょっと幽霊かと思ったら男の人が居て…ちょっとビックリしましてすいましぇん…」

薫「あんた大丈夫?迎えに行って上げるから場所教えて!」

キラリ「すいません…あのちょっとここが誰なのかよくわかって無くて…

すぐに確認しましゅハイ…」

キラリは隣に座っている男に声をかける。

キラリ「あの…あなたは…どこですか?」

男「……………ここに…居ますけど…」

キラリ「あっ…そうですね…わかりました…ありがとうございましゅ…」

薫「キラリ?そこに誰が居るの?」

キラリ「あの…ここに居るそうですので大丈夫です…えーと、すぐに帰りますので怒らないで下さい…お願いします…」

そう言ってキラリは電話を切った。

キラリ「えーと…私はなぜ…ここに居るんでしょう?」

男「君がここで寝落ちした時に怪しい男達が君を取り囲んだから、警察に通報したからもう大丈夫だ!って言って追っ払って…それで君が起きるまでここで見張ってたんだけど…もう大丈夫そうだね?」

キラリ「あっ…もう…ありがとうございます…大丈夫なんで…あとはお任せ下さい…」

親切な男は、キラリが本当に無事に帰れるのかとも思ったが、あまり深く関わらない方がと思い直し去っていった。