〔世界中の誰よりきっと〕


驚きで足が動かない 私は階段の途中で立ち尽くしてしまった
木村先生がそんな私を変だと感じて、私の後から声をかけて来た

「薫先生?・・どうしました?」
「・・・・・」

私の瞳には、溢れる前の涙がすでに溜まっていた
木村先生はそんな私を確認して、慌てて空席に誘導してくれた

私はその間にも 壇上の俊から目が離せないでいた
講演中の会場の動きに、壇上の俊が気づかないわけがなかった。
私が席に座ってからも 彼の視線が私を捉えている

資料を指しながら 研究成果を発表しているのに
俊の目は私を見ていた。 彼の視線から私は目を離す事など出来なかった

目を逸らすだなんて出来ないぐらい 彼のその優しい瞳を欲していたから・・

講演が終わり、終演のベルが鳴った
多くの記者や研究者が彼の周りを取り囲んでいる様をみていた。私はそのままその席から動く事が出来ないでいる。

木村先生がさっきの私の状況を心配してか声をかけてきた

「薫先生?・・もう大丈夫ですか?」
「ええ、さっきはごめんなさい・・私ったら・・・」

私がそう言うと 木村先生は 頷きながら笑顔を向けた

「・・もしかして、先輩が講演してる事知らなかったんですね。それに今までも連絡をとってなかった?」
「ええ、そうね」