それは誰かの夏の夢――大切な者と過ごした、数多の思い出の欠片たちだ。



なきたいような。

わらいたいような。



不思議な気持ちになるから、少年はほんの少しだけ困るのだ。それすらもある意味、夏の終わりのいい思い出になるかもしれない。



「玉響、またあそぼう」

「玉響、また夏祭りいこう」



星の海を泳ぐ金木犀色の金魚の双子から、約束の言の葉が囁かれる。夏のひとときに結ばれた小さな縁の一欠片。



名を呼ばれた少年は、自然と笑みが零れ落ちた。泡沫の季節を導くのが自分の役目でありどうせ名はすぐ忘れてしまい、思い出せなくなってしまうから。


だから――“玉響”と名乗る。微かな淡い願いを織り込んで。



「またね、約束だ」





それぞれが、それぞれの在るべき場所へ。