死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる


どれくらいそうしていたのか分からない。訳もわからず溢れてきた涙が乾いた頃、そろそろ自室に戻ろうとクローディアが立ち上がると、進行方向からエレノスが向かって来ていた。どうやらのクローディアが自室に戻っていないと聞いて、心配で戻ってきたようだ。

エレノスはクローディアの頬にうっすらと残る涙の跡に気づくと、端正な顔を悲痛に歪めた。

「どうして泣いていたんだい? ディア」

「…お兄様。どうしてここに?」

誤魔化すようにクローディアはエレノスの服の裾を掴む。それは何も聞かないでという幼い頃からの癖だった。

エレノスは今にもまた泣き出しそうなクローディアにそっと微笑みかけると、服を掴む手を自身の腕に回させ、ゆっくりとした足取りで歩き出した。


「ヴァレリアン殿下の様子が少し気になってね。殿下は家族とは不仲だと聞いていたから、王太子が殿下に逢いたいと泣いていたことに驚いて。面会は大丈夫だったのか気になって来てしまったが…」

エレノスはヴァレリアンの様子よりも、隣で俯いているクローディアの涙の理由が気になって仕方がなかった。ヴァレリアンと何かあったのだと察することはできるが。

「……不仲だと存じていたのに、お通しするなんて…」

「すまない、ディア。日を改めるよう提案したんだが、兄上も来てね。だから通してしまった。やはりまずかったかい?」

クローディアは首を横に振った。怪我をした弟を見舞いたいと兄が泣いて頼み込んできたら、家族思いなルヴェルグは同情して通してしまうはずだ。