クローディアはリアンの瞳が好きだ。綺麗な深い青色に何度見入ったことだろう。その目に真っ直ぐに見つめられ、言葉を交わした時間を思い返すと、優しい気持ちになれるほどに。
だが、あの青を前にすると、どうしてもフェルナンドのことを思い出してしまうのだ。彼ににつけられた傷はまだ塞がっていない。どんなに上質な薬を与えられても、今は沁みてしまうのだ。
「…ごめん、ディア」
リアンはクローディアの頬から手を離した。
「俺が悪かった。ディアのことをよく知りもしないで、ごめん。…全部忘れて」
自嘲をごまかすかのようなリアンの声に、クローディアは返事をしようとしたが、どんな言葉を掛けたらいいのか分からず、そのまま口を閉ざした。
リアンはクローディアに背を向け、ベッドへと戻っていった。まだ激しく傷が痛むのか、寝台に上がる時は顔を顰めながら傷口に手を添えていたのをクローディアは見ていたが、声は喉元で溶けて消えてしまったのか、ひとつも出てこなかった。
部屋を出ると、クローディアはその場でずるずるとしゃがみ込んだ。
──『…がっかりした?俺があんなやつの弟で』
リアンに言われた言葉が木霊する。心の中で、そうではないのだと答え、クローディアは膝を丸めて顔を埋めた。
あの男の弟だったことに驚きはしたが、リアンというひとりの男の子に変わりはない。だが、あの男の弟ならば、本当は仮面を被っているのではないかと心の片隅で疑ってしまうのだ。
リアンはクローディアのことを皇女としてでなく、一人の人間として見ていてくれたというのに、クローディアはまだ全てを飲み込むことができなかった。


