「ではこれにて失礼を」

フェルナンドはクローディアの反応に満足したのか、愉しそうに笑うと部屋を出て行った。

(リアンが、オルヴィシアラの王子?)

クローディアは疲れた顔をしているリアンを見つめた。

オルヴィシアラに王子が二人も居ただろうか。クローディアの記憶では、フェルナンドは唯一の王位継承者であり、王族が揃う結婚式や宣誓式などの公式の場でもリアンの姿はなかった。

その名を聞くことも一度もなかった。だとしたら、フェルナンドとクローディアが結ばれた頃にはもう、リアンはこの世にいなかったのではないだろうか。

もしくは、ずっと存在を隠されていたか。

「…兄弟、だったのね」

クローディアの呟きにリアンはため息をこぼすと、くしゃりと髪を掻き上げた。

「言ってなかったね。俺が生まれたのはオルヴィシアラ王国の王家だよ」

自分の口からは兄弟だと言いたくないのか、リアンは自嘲めいた笑みを浮かべていた。

クローディアはリアンから目を逸らし、夕映えの空へと視線を投げた。

クローディアにとって、リアンはリアンだった。王子だとしても、それは変わらない。だが、フェルナンドの弟だったことを知った今、揺らぎそうになる自分がいた。リアンはリアンだと口にしたのは、他ならぬ自分だというのに。

「ディアはあいつを知ってるの?」

リアンの問いに、クローディアは静かに頷いた。

「…ええ、知っているわ」

フェルナンドのことなど、嫌というほど知っている。甘い言葉で人を惑わし、人を人として扱わない。そんなあの男がまた王位に就くのだと思うと背筋が凍る。