「……ディア」

どうしてここに、とリアンは問いかけようとしたが、クローディアの足元に散らばる花瓶の破片とたくさんの花を見て察した。あの後花を摘みに行ってくれていたのだろう。

フェルナンドの手がリアンの胸元から離れ、その頬ににぃっと気味の悪い笑みが飾られる。それを見てリアンは吐きそうになった。

「……これはこれは、クローディア皇女殿下。ご機嫌麗しゅう」

クローディアは固まった。なんと、リアンを襲っていた男がフェルナンドだったからである。

オルヴィシアラの王太子であるフェルナンドが何故ここにいるのか。二人の関係性を知らないクローディアは、胸の鼓動が速くなっていくのを感じながら口を開いた。

「……リアンに、何をなさっているのですか?」

「貴女には関係のないことです」

フェルナンドはにっこりと微笑むと、クローディアに近づいてきた。その距離が縮まるほどに、泣きたいような、逃げ出したいような思いが迫り上がってくる。

だが、逃げるわけにはいかない。今クローディアがいなくなったら、リアンがまた襲われてしまう。非力な自分でも、仮面を被った悪魔からの盾くらいにはなれるだろうから。

一歩、二歩、三歩と。ゆっくりとした足取りでフェルナンドはクローディアの目の前に来ると、耳元でそっと囁いた。

「…クローディア皇女。間違ってもヴァレリアンに心を開かないよう。その者はオルヴィシアラ王国の神を冒涜する存在ですからね」

「オルヴィシアラ…?リアンと何の関係があるのですか?」

「おや、ご存知なかったのですか? こいつはこんな身形ですが、オルヴィシアラの国王の息子ですからね」

クローディアは息を呑んだ。
リアンはオルヴィシアラの王子で、フェルナンドの弟だったのだ。