ヴァレリアンが眠る客室へと、黒い人影が伸びる。少し癖のある漆黒の髪、海の色の瞳、青白い肌。我らは太陽神に仕えていた眷属の末裔なのだと誇る一族で生まれたフェルナンドは、国宝の壁画に描かれている太陽神のような見た目で生まれた弟・ヴァレリアンの存在が許せなかった。
「生きていたのか、ヴァレリアン」
フェルナンドは部屋に入ると、リアンが布団に潜り込んでいるのを見て鼻で笑った。
「寝たふりをしても駄目だぞ。お前は昔から、何かあるとすぐ布団の中に逃げていたからな」
逃げる、と言われたことが気に障ったのか、リアンは布団から飛び起きると、フェルナンドを睨むような目で見る。
「……やはり兄上の差金ですか? あの男は」
「誰に向かって口を聞いている!」
フェルナンドは声を荒げると、リアンの胸ぐらを掴んだ。突然のことに、リアンは目を見開いて兄を凝視した。
リアンは兄であるフェルナンドに逆らうことができなかった。なぜならリアンが生を受けた時──神を冒涜する子だからこのまま水に落とそう、と誰もが口々に言う中で、フェルナンドだけが涙を流し、命を尊んだのだ。
それにより人々はフェルナンドを敬愛するようになり、リアンのことはいない者として扱うようになった。
ただ一人、兄であるフェルナンドを除いて。
「いいか、お前は僕のお陰で生きていれるんだ! 僕が望めば、お前の命など簡単に──」
「リアンに何をしているの!?」
リアンが全てを諦めようとした時、部屋の入り口からいるはずのない声が響いた。


