「閣下には妹君であられるクローディア皇女がいらっしゃいますよね!? 仮に皇女殿下が怪我をされたら、見舞いたいと思われないのですか? 愛する家族を置いて帰れますか?」

「……それは」

エレノスはちらりとローレンスを盗み見る。おそらくローレンスも同じことを言われて困り、エレノスに助けを求めてきたのだろうが、エレノスも困ってしまった。

もしもクローディアがヴァレリアンと同じ目に遭ったら──エレノスもローレンスも、衛兵を薙ぎ倒してでも見舞うに決まっているからだ。

困り果てたその時、皇帝の訪れを報せる侍従の声が響いた。全員で部屋のドアの方を向き、深々と敬礼をして待っていると、開かれた扉から今日も凛々しいルヴェルグが現れる。

ルヴェルグは部屋の面々を見渡し、エレノスを見て苦笑を漏らすと、ゆっくりとした足取りで弟たちのところにやって来た。

「──顔だけでも見せて差し上げたらどうだ?無事を確認したいのだろう」

「…陛下」

「それに、家族が怪我をしたら見舞うのは当然のことだろう?」

ルヴェルグの言葉にエレノスは頷くしかなかった。皇帝である兄がそう言うのだ。従うほかない。

「…分かりました。案内いたします」

エレノスは部屋の隅にいる使用人にフェルナンドを案内するよう命じると、身を投げるようにしてソファに座った。

(申し訳ございません。ヴァレリアン殿下)

会いたくないと言って、布団に潜り込んでいたヴァレリアンの姿が甦る。

会いたがっていた兄と、会いたくないと言った弟。ヴァレリアンの気持ちを尊重したかったが、弟想いなフェルナンドを見たら、家族想いで優しいエレノスの心は揺れてしまった。

──どうか兄の来訪に気づかず、眠っていてほしい。
そう願うことしか、エレノスにはできなかった。